夫から離婚を切り出されたのは、突然のことでした。
話し合いになると思っていたものが、最初から結論のように出されました。
その日から、家の中の空気が変わっていきました。
同じ場所にいるのに、見えるものが少しずつ変わっていく。
何を見てもはっきりしないまま、時間だけが過ぎていきました。
朝、台所に立っていても考えがまとまりませんでした。
何から考えればいいのかが分からず、途中で止まってしまいます。
夫のことなのか、
生活のことなのか、
お金のことなのか。
どれも同時に乗ってきて、分けることができませんでした。
「前が見えなかったんです。ワイパーが止まると何も見えない感じでした。」
拭いてもすぐに曇っていく。
前が見えないまま、時間だけが進んでいきました。
その中でずっと起きていたのは、決断そのものではありませんでした。
一人だけに重さが集まっていく状態でした。
答えを出すことより先に、まずそれが自分の中で分かれていませんでした。
何を背負わされているのかも、はっきりしないまま時間だけが進みます。
「誰かに重荷を一緒に持ってほしかったんです。」
一人で抱えるには重すぎるのに、渡す場所もありません。
台所でも、夜の部屋でも、そのまま立ち止まっていました。
そのとき頭の中は、ずっと同じところを回っていました。
離婚に応じるのか、応じないのか。
どちらを選んでも不安が残り、どちらを選んでも失うものが見えてしまいます。
「どう決めればいいのか、それだけが分からなかったです。」
生活は止まりません。
動きながら、考えだけが重くなっていきます。
スマホで何度も検索していました。
離婚、決め方。離婚、生活。離婚、後悔。
情報は出てきますが、自分の状況には当てはまりませんでした。
AIにも聞きました。
でも、軽い答えに見えてしまって、自分のこととは違う気がしました。
読み終えても、現実はそのまま残っていました。
必要だったのは、答えではありませんでした。
まず、自分が一人で決める圧の中にいることを、外から見ることでした。
何を考えているのかを、そのまま全部出すことでした。
離婚のことだけではありません。
不安も、怒りも、怖さも、そのまま書いてよい状態にすることでした。
書いていくと、それが自分の中から少し外に出ていきます。
頭の中だけで回っていたものが、紙の上に並びます。
それを見たとき、少しだけ距離ができます。
少しだけ、呼吸がしやすくなります。
水面のほうに、少しだけ近づく感じになります。
