待っていたつもりだった話

「仕事が落ち着けば」
「子どもが大きくなれば」
出会った頃のように戻れるのではないかと思っていました。
「待っていたつもりでした」
「でも」
「期待しながら、遠ざけていました」

大きな喧嘩があったわけではありませんでした。
会話が減っていました。
一緒に出かけることも少なくなっていました。
同じ言葉なのに、前より引っかかる。
「この人、こんな人だったかな」
そう思うことが増えていきました。

期待しては、少し失望する。
また期待しては、少し失望する。
その繰り返しでした。
小さな失望だけが、静かに積み重なっていきました。

「待っている間に、嫌なところばかり見えるようになっていたんです」
「でも、ある日、気づいたんです」
「気づいたら、私は、あの人を待っていませんでした」

住まいのこと。
財産分与のこと。
これからの連絡のこと。
ひとつずつ、形にしていきました。

終わった日。
苦しかったのは、待ち続けた時間ではないと分かりました。

待つべき未来に、もう二人はいませんでした。
待っているはずの私も、そこにはいませんでした。

終わらせようと決めた日はありませんでした。
諦めた日もありませんでした。
その繰り返しの中で、待つことそのものが、静かに終わっていました。

名もなきものは漂います。
名を持つことで鎮まります。
書が、それを綴じる。

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