離婚届を出した時点で、夫婦関係は終わっていました。
財産分与も、養育費も、慰謝料も整理されていました。
話し合いとしては、一度は区切りがついています。
それでも、住宅ローンだけが残っていました。
名義はそのまま。返済もそのまま。
住んでいるのは、どちらか一方だけでした。
その方は言いました。
「離婚したのに、お金だけがまだ一緒なんです。」
離婚は人と人の関係を終わらせます。
住宅ローンは、お金の契約を残します。
この二つは、同じ時間で終わりません。
離婚届を出した日に、ローンは何も変わりません。
銀行にとって、離婚は関係のない出来事です。
ある月のことです。
引き落としの日になる。通帳の残高が減る。数字だけが動く。
そこに会話はありません。連絡もありません。
ただ、数字だけが減っていきます。
その瞬間、何も起きていないのに、相手の存在だけが思い出されます。
これは毎月、同じ日に、同じように来ます。
住み続ける側は、相手名義の家に住み続けます。
毎日帰る場所は変わっていません。
支払い側は、住んでいない家に支払い続けます。
使っていないものに、お金が出ていきます。
どちらも、終わった感じがしません。
終わったのは関係で、終わっていないのは仕組みだからです。
「もう話すことはないんです。でも、引き落としのたびに思い出します。」
これは感情ではありません。仕組みです。
だから、感情で解決しようとしても変わりません。
住宅ローンは、売却するか、借り換えるか、どちらかが引き受けるかでしか終わりません。
条件はすでに出ています。
残っているのは、終わらせ方を一つに決めることだけです。
一度でも方向を決めると、毎月の引き落としの意味が変わります。
相手を思い出す合図ではなく、整理が進んでいる途中の処理になります。
通帳を見るたびに揺れていた状態は、決めた人から先に終わっていきます。
名もなきものは漂います。
名を持つことで鎮まります。
書が、それを綴じる。
