「最近、相手が変わった気がするんです」
その方は、そう言いました。
「前は、こんな言い方をする人じゃなかったと思うんです」
急に冷たくなった。
話が通じなくなった。
前より、自分のことしか考えていないように見える。
「この人、こんな人だったかなと思うことが増えました」
何かが起きたわけではありませんでした。
仕事も変わっていませんでした。
生活も変わっていませんでした。
大きな出来事もありませんでした。
それでも、以前とは違って見えていました。
話を整理していく中で、昔のやり取りの話になりました。
「その頃は、そこまで気にならなかったんです」
同じ言葉。
同じ態度。
「でも、最近は、そう思えなくなっていました」
その方は、相手が変わったと思っていました。
前のように話せない。
前のように受け流せない。
前のように我慢できない。
だから、どこかで考えていたそうです。
「また前みたいになればいいのに」
そう思っていました。
しかし、話をしていく中で、あることに気づきました。
「戻りたかったのは、相手じゃなかったんです」
その方は言いました。
「前の自分でした」
「前なら、平気だったんです」
「前なら、これでいいと思えていました」
「でも、今の私は、もうそう思えなくなっていました」
少し考えてから、その方は言いました。
「前の私が、いなくなっていたんですね」
相手は、前と同じでした。
だからこそ、同じ言葉が、前と同じようには聞こえなくなっていました。
以前なら流していたことが、流せなくなっていました。
以前なら飲み込めていたことが、飲み込めなくなっていました。
「前と同じ場所には、戻れなかったんですね」
名もなきものは漂います。
名を持つことで鎮まります。
書が、それを綴じる。
