離婚協議や財産分与の相談で、会社経営者や会社役員の方から、「会社で積み立てている生命保険は離婚で財産分与の対象になりますか」という相談を受けることがあります。
特に中小企業では、会社契約の生命保険を活用して役員退職金を準備していることが少なくありません。そのため、「保険の解約返戻金を半分請求されるのではないか」と不安になる方もいます。しかし、実際にはそれほど単純ではありません。
結論
会社契約の生命保険があるからといって、その解約返戻金が離婚で半分取られるとは限りません。
会社契約の生命保険は原則として会社の財産です。そのため、個人契約の生命保険のように、解約返戻金そのものが直ちに財産分与の対象になるわけではありません。ただし、会社の株式価値や将来の役員退職慰労金との関係で問題になることがあります。
離婚で争点になるのは、生命保険そのものではなく、その保険が会社や社長個人の財産価値にどう影響するかです。
争点① 会社の生命保険は誰の財産なのか
まず確認しなければならないのは、その生命保険が誰の財産なのかです。
会社契約の生命保険は、契約者も保険料の負担者も会社であり、解約返戻金も会社に帰属します。会社と社長は法律上別の存在です。そのため、「会社に生命保険がある」という事実だけで、「社長個人の財産だから半分分ける」という話にはなりません。
争点② 自社株の価値に反映されるのか
会社契約の生命保険が全く無関係というわけではありません。会社に多額の解約返戻金がある場合、その資産は会社の価値に反映される可能性があります。
会社オーナーが自社株を保有している場合には、会社資産が会社価値に影響し、その結果として株式価値に影響することがあります。生命保険そのものではなく、自社株の評価を通じて財産分与の問題になることがあるのです。
争点③ 将来の役員退職金はどう扱われるのか
中小企業では、会社契約の生命保険を役員退職慰労金の原資として利用していることがあります。この場合、「将来受け取る退職金も財産ではないか」という主張がされることがあります。
特に離婚時点で退任が近い場合や、退職金支給の見込みが高い場合には争点化する可能性があります。
「退職金制度がないから大丈夫」とは言えない
会社に退職金規程がない場合でも安心はできません。
役員退職慰労金は、株主総会の決議や会社の慣行、過去の支給実績などによって支給される場合があります。そのため、「規程がないから退職金はゼロ」と断定することはできません。
一方で、退職金規程がないこと、支給決議がないこと、算定基準がないこと、支給時期が決まっていないことは、将来の退職金請求権が確定していないことを示す重要な事情になります。
社長側が確認しておきたい3つのポイント
会社契約の生命保険が問題になりそうな場合は、次の3点を整理しておくことが重要です。
契約者貸付が残っていないか
解約返戻金があっても、契約者貸付が残っている場合には自由に使える金額は大きく減少します。実際に受け取れる金額を確認しておく必要があります。
解約した場合に会社経営へ影響がないか
その保険が融資条件や資金繰りと関係している場合があります。解約によって経営へ影響が出るのであれば、単純な現金資産とは言えません。
なぜ加入した保険なのか
役員保障、従業員保障、事業承継対策、金融機関対応など、加入目的を資料で説明できる状態にしておくことが重要です。
まとめ
会社で積み立てた生命保険があるからといって、その解約返戻金が直ちに財産分与の対象になるわけではありません。会社契約の生命保険は原則として会社の資産です。もっとも、自社株評価や将来の役員退職慰労金との関係で問題になることがあります。
実際の争点は、「保険があるか」ではありません。「その保険が会社のためのものなのか」「社長個人の権利として確定しているのか」です。
離婚協議では、会社と個人の財産が混同されることで話が複雑になることがあります。会社契約の生命保険がある場合は、契約内容、解約返戻金額、契約者貸付残高、加入目的、退職金制度の有無などを整理したうえで、財産分与の対象になるのかを検討することが重要です。
特に会社オーナーや役員の場合は、預金や不動産だけでなく、会社との関係も含めて財産を整理したうえで、財産分与の内容を書面として明確にしておくことが重要です。
