【長崎】配偶者の病気と離婚|不治の精神病など法律が定める基準

病気だけで離婚できるわけではない

夫婦は、互いに協力し、助け合う義務を負っています。配偶者が病気になった場合でも、夫婦である以上、できる範囲で生活を支え合うことが前提になります。

そのため、配偶者が病気になったという理由だけで、直ちに離婚が認められるわけではありません。

ただし、病気の内容、療養の長さ、夫婦の生活状況、介護や看護の負担、今後の見通し、別居の有無、家族の支援状況などによっては、婚姻関係の継続が難しいと判断される場合があります。

目次

「強度の精神病」は離婚原因から削除された

以前の民法770条1項4号には、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」という離婚原因がありました。

しかし、2026年4月1日施行の民法等改正により、この規定は削除されています。現在は、病気や障害そのものを独立した離婚原因として扱うのではなく、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に当たるかどうかで判断します。法務省は、令和6年法律第33号により、親権・監護、養育費、親子交流、財産分与等に関する民法等の規定が見直され、同法が2026年4月1日に施行されると説明しています。(法務省)

そのため、現在の記事では、「強度の精神病で回復の見込みがなければ離婚原因になる」という書き方は使わない方が安全です。

現在の裁判上の離婚原因

現在の民法770条では、裁判上の離婚原因として、主に次の内容が問題になります。

配偶者に不貞な行為があったとき
配偶者から悪意で遺棄されたとき
配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき

配偶者の病気を理由に離婚を考える場合は、このうち「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に当たるかどうかが中心になります。

病名ではなく、夫婦生活の実情で判断される

現在は、病名だけで離婚できるかどうかを分ける考え方は適切ではありません。

うつ病、統合失調症、認知症、アルコール依存症、薬物依存症、重い身体障害、植物状態など、どの病気であっても、病名だけで結論が決まるわけではありません。

大切なのは、その病気によって、夫婦としての共同生活を続けることが現実に難しくなっているかどうかです。

たとえば、次の事情が問題になります。

療養が長期間に及んでいるか
回復や生活再建の見通しがあるか
夫婦間の会話や協力関係が残っているか
看護や介護の負担が一方に極端に集中しているか
相手方の生活や療養をどう支えるか
離婚後の住まい、医療、生活費の見通しがあるか
子どもがいる場合、子どもの生活にどのような影響があるか

病気の配偶者を突然切り離すような形では、離婚は認められにくくなります。

一方で、長期間にわたり夫婦としての実体がなく、今後も共同生活を回復できる見込みがない場合は、離婚が認められる余地があります。

療養と生活の具体的な見通し

旧法下の判例では、配偶者が回復の見込みのない精神病にかかった場合でも、それだけで直ちに離婚を認めるのではなく、病者の今後の療養や生活について、できる限り具体的な方策が用意されているかを重視していました。最高裁昭和33年7月25日判決は、病者の今後の療養、生活等について具体的方途を講じ、ある程度その見込みがついた上でなければ、直ちに婚姻関係を廃絶することは相当でないと判断しています。

この判例は、旧民法770条1項4号があった時代のものです。

しかし、現在でも、配偶者の病気を理由に離婚を考える場合には、離婚後に相手の療養や生活がどうなるのかが重要な事情になります。

病気の相手を置き去りにするような離婚は、裁判所に受け入れられにくいと考えるべきです。

離婚を考える前に確認すること

配偶者の病気を理由に離婚を考える場合は、まず次の点を整理します。

病名と診断内容
治療期間
入院や通院の状況
服薬や治療への協力状況
日常生活でできること、できないこと
家族や親族の支援状況
医療費や生活費の負担
障害年金、介護保険、生活保護などの利用可能性
夫婦関係がいつから悪化したか
別居の有無と期間
子どもへの影響

この整理をしないまま「病気だから離婚したい」と言っても、話は進みにくくなります。

離婚できるかどうかではなく、まず生活の現実を確認する必要があります。

病気の配偶者と協議離婚できるか

協議離婚は、夫婦双方に離婚する意思があることが必要です。

配偶者が病気であっても、離婚の意味を理解し、自分の意思で離婚に合意できる状態であれば、協議離婚は可能です。

一方で、判断能力が大きく低下し、離婚の意味を理解できない状態であれば、協議離婚は慎重に考える必要があります。

離婚届に署名があっても、本人に離婚意思がなければ、後で離婚無効が問題になることがあります。

判断能力がない場合の離婚訴訟

配偶者が成年被後見人である場合や、訴訟を進める能力が問題になる場合は、人事訴訟法上の扱いを確認する必要があります。

人事訴訟法14条は、人事に関する訴えの原告または被告となるべき者が成年被後見人であるときは、その成年後見人が、成年被後見人のために訴え、または訴えられることができると定めています。ただし、その成年後見人が訴訟の相手方となる場合は、成年後見監督人が成年被後見人のために訴え、または訴えられることになります。

そのため、病気の配偶者を相手に離婚訴訟をする場合、誰を相手方として手続を進めるのかは、個別に確認が必要です。

この段階は、弁護士に相談する場面です。

慰謝料は請求できるか

病気そのものは、不貞行為や暴力とは違います。

配偶者が病気になったこと自体に違法性があるわけではありません。

そのため、病気を理由に離婚する場合、病気になったことを理由として慰謝料を請求することは、通常は難しいと考えるべきです。

ただし、病気とは別に、暴力、暴言、生活費を渡さないこと、悪意の遺棄、不貞行為などがある場合は、その行為について慰謝料が問題になることがあります。

つまり、病気だから慰謝料を請求できるのではありません。

違法な行為があり、それによって精神的苦痛を受けた場合に、慰謝料が問題になります。

アルコール依存症や薬物依存症の場合

アルコール依存症や薬物依存症も、病名だけで離婚原因になるわけではありません。

しかし、依存症によって暴力、生活費の浪費、借金、仕事の喪失、子どもへの悪影響、治療拒否などが続いている場合は、婚姻を継続し難い重大な事由として問題になることがあります。

この場合も、病名ではなく、生活への影響を整理します。

飲酒や薬物使用の頻度
暴力や暴言の有無
借金や浪費の有無
治療への意思
家族への影響
子どもへの影響
別居の必要性

依存症が疑われる場合は、家族だけで解決しようとしない方がよい場合があります。

医療機関、保健所、精神保健福祉センター、自助グループなどへの相談を検討します。

病気がある場合の離婚条件

配偶者に病気がある場合は、離婚そのものだけでなく、離婚条件の整理が重要です。

特に次の項目を確認します。

財産分与
慰謝料の有無
婚姻費用の未払い
年金分割
住まい
医療費
扶養的財産分与
生活保護や障害年金などの制度利用
子どもの親権・監護
養育費
親子交流

病気の配偶者が離婚後に生活できない状態になる場合、財産分与の中で扶養的な要素を考慮することがあります。

ただし、行政書士が相手との交渉を代理することはできません。

条件に争いがある場合は、弁護士への相談が必要です。

離婚を急ぐべきでない場合

配偶者の病気を理由に離婚を考える場合でも、すぐに離婚届を出すことが適切でない場合があります。

相手の判断能力がはっきりしない
療養方針が決まっていない
生活費や医療費の負担が未整理
住まいが決まっていない
子どもの生活が不安定になる
親族や支援者との連絡体制がない
年金分割や財産分与が未整理

このような状態では、離婚後に大きな問題が残ります。

まず、療養、住まい、お金、子どもの生活を確認します。

そのうえで、離婚協議書や公正証書にする内容を整理します。

まとめ

配偶者が病気になっただけで、直ちに離婚できるわけではありません。

2026年4月1日施行の民法等改正により、「強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」という独立した離婚原因は削除されています。

現在は、病気や障害そのものではなく、夫婦関係全体を見て、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」があるかどうかで判断します。

病気を理由に離婚を考える場合は、病名ではなく、療養の状況、夫婦関係の実情、生活の見通し、離婚後の支援体制を整理する必要があります。

病気そのものを理由に慰謝料を請求することは、通常は難しいです。

ただし、暴力、不貞、悪意の遺棄など、病気とは別の違法行為がある場合は、慰謝料が問題になることがあります。

配偶者の判断能力が低下している場合や、離婚に争いがある場合は、家庭裁判所の手続や弁護士への相談を検討する必要があります。

目次