性生活の不一致をめぐる離婚判断
性生活の不一致は、それだけで常に離婚原因になるわけではありません。
裁判では、性交渉の有無だけでなく、婚姻期間、別居の有無、夫婦関係の破綻状況、改善の可能性、相手への配慮、ほかの破綻原因の有無などが見られます。
現在の民法770条では、裁判上の離婚原因として、不貞行為、悪意の遺棄、3年以上の生死不明、その他婚姻を継続し難い重大な事由が定められています。性生活の不一致は、通常、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」があるかどうかの中で判断されます。e-Gov法令検索・民法 (e-Gov 法令検索)
性生活の不一致をめぐる判断例
| 事例 | 別れたい理由 | 別れない理由・反論 | 判断の要点と結果 |
|---|---|---|---|
| 1 | 夫が夫婦生活を嫌い、ポルノビデオを見ながら自慰行為を行うとして、妻が離婚を求めた。昭和63年婚姻、平成3年別居 | 夫は、妻の不満と、妻の両親および祖母の影響によるものであり、改善を約束すると主張した | 性生活の異常といえるかが問題となった。裁判所は、性交渉が入籍後5か月内に2、3回にとどまり、夫の行為は正常な夫婦の性生活とはいえず、改められていないとして、妻の離婚請求を認めた。福岡高裁平成5年3月18日判決・判例タイムズ827号270頁 |
| 2 | 夫の病気、生活難、家事への非協力を理由に、妻が離婚を求めた | 夫は、妻の他の男性に対する軽率な行動を主張した | 性格および性生活の不一致が問題となった。裁判所は、性格および性生活の不一致により、妻が夫に対する信頼感と愛情を失ったと認定し、離婚請求を認めた。名古屋高裁昭和53年6月13日判決・ジュリスト678号6頁 |
| 3 | 夫の同性愛を理由に、妻が離婚を求めた。昭和39年に事実上の結婚、昭和40年婚姻。そのころから夫が性交渉を求めなくなった | 夫は、関係の解消を約束すると主張した | 性的異常の有無が問題となった。裁判所は、正常な性生活とはいえず、正常な婚姻生活を取り戻すことは不可能であるとして、妻の離婚請求を認めた。名古屋地裁昭和47年2月29日判決・判例時報670号77頁 |
| 4 | 妻が、性生活が常態ではないとして離婚を求めた。判決文上、詳しい事情は明らかではない | 詳細は明らかではない | 性生活の状況が、婚姻を継続し難い事情に当たるかが問題となった。裁判所は、婚姻を継続し難いとして、離婚請求を認めた。最高裁昭和37年2月6日判決・判マ |
| 5 | 夫の性交不能を理由に、妻が離婚を求めた。昭和56年12月婚姻、約3年6か月性交渉なし、昭和60年別居。妻は夫の家業を手伝っていた | 夫は、妻の主張を否認したものと思われるが、詳細は明らかではない | 性的不能の有無が問題となった。裁判所は、夫の性的不能を推認し、婚姻を継続し難い重大な事由を認めた。さらに、性的不能を告げなかったことは不法行為を形成するとして、慰謝料200万円を認めた。京都地裁昭和62年5月12日判決・判例時報1259号92頁 |
性生活の不一致で見られる事情
性生活の不一致が問題になる場合、裁判では次のような事情が見られます。
性交渉の有無
性交渉がない期間
性交渉を拒む理由
病気や身体的事情の有無
夫婦間で改善の話し合いがあったか
相手を傷つける言動があったか
別居の有無と期間
夫婦関係全体の破綻状況
信頼関係や愛情が失われているか
性生活の問題だけでなく、夫婦関係全体が見られます。
そのため、単に「性生活が合わない」というだけでは足りません。性生活の不一致が、夫婦としての共同生活を続けることが難しい状態につながっているかが問題になります。
性交渉がない場合
夫婦間で長期間性交渉がない場合、離婚原因として問題になることがあります。
ただし、性交渉がないことだけで直ちに離婚が認められるわけではありません。
病気、出産、育児、仕事の疲労、精神的な負担、夫婦関係の悪化など、背景事情によって判断は変わります。
大切なのは、性交渉がないことが、夫婦の信頼関係や共同生活にどのような影響を与えているかです。
相手が一方的に拒み続けているのか。
話し合いができているのか。
改善の意思があるのか。
相手を傷つける態度が続いているのか。
すでに別居しているのか。
このような事情を整理する必要があります。
性的不能や病気がある場合
性的不能や病気がある場合は、慎重な判断が必要です。
病気や身体的事情があること自体を責める形で離婚を求めると、相手を深く傷つけることになります。
一方で、婚姻前から重要な事情があり、それを告げないまま婚姻した場合や、婚姻後にまったく話し合いができず、夫婦関係が回復できない状態になっている場合には、離婚原因や慰謝料が問題になることがあります。
この場合も、病名や身体的事情だけで判断するのではありません。
婚姻前後の説明、夫婦間の話し合い、治療や改善の可能性、別居の有無、夫婦関係全体の破綻状況を見て考える必要があります。
性的指向が問題になる場合
過去の裁判例には、同性愛を理由として離婚が問題になったものがあります。
ただし、現在の記事では、性的指向そのものを非難する形で扱うべきではありません。
問題になるのは、性的指向そのものではなく、夫婦としての共同生活が成り立っているか、婚姻時に重要な事情が隠されていたか、相手との信頼関係が失われているかです。
性的指向や性に関する事情は、本人の尊厳に深く関わります。
離婚原因として考える場合も、相手を侮辱する表現や、人格を否定する表現は避ける必要があります。
証拠と記録
性生活に関する問題は、非常に私的な内容です。
そのため、証拠を集める場合も慎重に考える必要があります。
日記やメモ
別居の時期が分かる資料
夫婦間の話し合いの記録
医療機関の資料
相手の発言が分かる記録
調停で説明するための時系列表
無断録音、スマートフォンの無断閲覧、SNSやメールへの不正アクセス、性的な画像や動画の保存・拡散などは、別の問題を生むことがあります。
記録を残す場合は、事実関係を整理するために必要な範囲にとどめることが大切です。
離婚協議で整理すること
性生活の不一致を理由に離婚を考える場合でも、最終的には離婚条件を整理する必要があります。
離婚原因だけを話し合っても、離婚後の生活は決まりません。
整理すべき内容は、次のとおりです。
離婚するかどうか
別居の有無
婚姻費用
財産分与
慰謝料
養育費
親権・監護
親子交流
年金分割
住まい
清算条項
性生活の問題は、夫婦関係の破綻理由として重要な場合があります。
ただし、離婚協議書や公正証書にする段階では、離婚後のお金、子ども、住まいの約束ごとを別に整理する必要があります。
まとめ
性生活の不一致は、夫婦関係に深く影響する問題です。
しかし、性生活の不一致だけで、常に離婚が認められるわけではありません。
裁判では、性交渉の有無、拒否の理由、病気や身体的事情、夫婦間の話し合い、別居、信頼関係の喪失、婚姻関係全体の破綻状況が見られます。
性的な問題は、本人の尊厳に関わるため、感情的な非難や人格攻撃にしないことが大切です。
離婚を考える場合は、性生活の問題と、離婚後のお金、子ども、住まいの問題を分けて整理します。
そのうえで、必要な約束ごとを離婚協議書や公正証書に残せる形にしておくことが大切です。
