【長崎】宗教をめぐる離婚判断|信仰の自由と婚姻継続の難しさ

宗教を信じること自体は、離婚原因ではありません。

日本国憲法は、信教の自由を保障しています。また、何人も宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されないと定めています。e-Gov法令検索・日本国憲法 (e-Gov 法令検索)

一方で、夫婦の共同生活に大きな支障が出ている場合は、裁判上の離婚原因として問題になることがあります。

現在の民法770条では、裁判上の離婚原因として、不貞行為、悪意の遺棄、3年以上の生死不明、その他婚姻を継続し難い重大な事由が定められています。宗教活動が問題になる場合は、通常、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」があるかどうかの中で判断されます。e-Gov法令検索・民法 (e-Gov 法令検索)

以下の裁判例は、当時の法制度のもとでの判断例です。親権者に関する記載は、当時の裁判例の結論として読んでください。

目次

宗教をめぐる判断例

スクロールできます
事例別れたい理由別れない理由・反論判断の要点と結果
1妻が某宗教に入信し、その教えを絶対とし、夫婦生活などに重大な影響が出ているとして、夫が離婚を求めた。子ども2人も、卒業記念制作や運動会の応援合戦に参加しないなどの影響があると主張した妻は、聖書の原則に反する事柄を強要されたり要求された場合にできないだけであり、夫婦関係や親子関係が破壊されているわけではないと主張した。活動は、週3回の集会参加と週2回の伝道活動にとどまると主張した婚姻関係の破綻の程度が問題となった。第1審は夫の請求を棄却したが、控訴審は離婚請求を認めた。夫は妻の宗教に嫌悪感を持ち、妻はこれに配慮せず集会参加や布教活動を続け、母屋の離れで不自由な生活を続けており、婚姻関係は回復しがたいまでに破綻しているとされた。2人の子の親権者は妻とされた。名古屋高裁平成10年3月11日判決・判例時報1725号144頁
2妻が某宗教に入信し、当初は週1回1時間の聖書の勉強や月1回の集会であったが、その後週3回の集会と布教活動を行うようになり、自宅の仏壇に手を合わせず、後にアパートで1人暮らしをするようになったとして、夫が離婚を求めた妻は、夜間の集会や伝道活動には参加しておらず、家事や育児に支障が出ないよう配慮していると主張した。また、夫婦関係を修復したい気持ちは強いと主張した婚姻関係の破綻の程度が問題となった。第1審は夫の請求を棄却したが、控訴審は離婚請求を認めた。妻の布教活動により、日常の家事や子どもの養育に相当の支障が出ることは避けがたく、夫の妻に対する不信と憎悪が強く、別居期間もすでに8年に及んでいるとして、婚姻関係は完全に破綻しているとされた。2人の子の親権者は夫とされた。大阪高裁平成2年12月14日判決・判例時報1384号55頁
3妻が某宗教に入信し、夫が嫌悪しているにもかかわらず、集会出席、布教活動、夫の亡父への焼香拒否などを続けたとして、夫が離婚を求めた妻は、夫が帰るのをいつまでも待つと主張した。また、夫の宗教への無理解、アルコール依存による精神状態の不安定を主張し、宗教活動は自粛しないとした婚姻関係の破綻の程度と責任が問題となった。第1審は夫の請求を棄却したが、控訴審は離婚請求を認めた。夫が妻の宗教活動を嫌悪しており、妻も宗教活動を自粛する意思がなく、夫婦としての共同生活を回復する余地はないとされた。3人の子の親権者は妻とされた。東京高裁平成2年4月25日判決・判例時報1351号61頁
4妻が某宗教に入信し、夜の集会へ出席し、理容業における洗髪などの下仕事をしなくなったとして、理容師である夫が離婚を求めた。別居期間は4年妻は、集会は月2回程度であり、別居は夫に家を追い出されたものだと主張した婚姻関係の破綻の程度と責任が問題となった。夫の離婚請求は棄却された。別居は夫が妻を追い出したものであり、集会も月1回から3回程度で、家事や仕事を顧みないとはいえず、夫婦生活の回復は可能とされた。名古屋地裁豊橋支部昭和62年3月27日判決・判例時報1259号92頁
5婚姻後5年余りで妻が某宗教に入信し、週3回の集会に参加し、夫の意向を無視しているとして、夫が離婚を求めた妻は、宗教活動で家庭を犠牲にしていないと主張した。また、夫こそ暴力を振るったり、布団での就寝を許さなかったりしたと主張した婚姻関係の破綻の程度が問題となった。離婚請求は認められた。妻は、夫や家庭よりも宗教活動を第一義的に考え、最優先させており、宗教活動を中止する意思もうかがわれないとされた。2人の子の親権者は妻とされた。大分地裁昭和62年1月29日判決・判例時報1242号92頁
6妻が某宗教に入信し、宗教活動に打ち込んでいるとして、夫が先に離婚を求めた妻は、夫には暴力を振るう性癖があり、異常性格の持ち主であるとして反訴した双方の離婚請求が認められた。有責性の有無を判断することなく離婚が認められたが、婚姻破綻の端緒は夫の妻に対する人格を無視した言動にあるとして、慰謝料300万円が認定された。婚姻期間6年半で、財産分与は640万円とされた。3人の子の親権者は妻とされた。浦和地裁昭和59年9月19日判決・判例時報1140号117頁
7夫が、妻の信仰を理由に離婚を求めた妻も、夫の信仰を理由に離婚を求めた双方の離婚請求が認められた。夫が自分の信仰を秘していたことが婚姻破綻の端緒であるとして、慰謝料100万円が認定された。東京高裁昭和58年9月20日判決・判例時報1088号78頁

宗教活動で見られる事情

宗教活動が問題になる場合、裁判では次のような事情が見られます。

信仰そのものではなく、家庭生活への影響
夫婦間の話し合いの有無
相手の信仰や価値観への配慮
宗教活動の頻度
家事や仕事への影響
子どもの生活や学校行事への影響
親族の葬儀や法要への対応
別居の有無と期間
夫婦関係の回復可能性
暴力や人格否定など、ほかの破綻原因の有無

宗教を信じることは自由です。

しかし、宗教活動によって夫婦の共同生活が成り立たなくなり、子どもの生活や家庭生活に大きな支障が出ている場合は、婚姻関係の破綻として問題になることがあります。

宗教を理由にした離婚で注意すること

宗教を理由に離婚を考える場合、相手の信仰そのものを否定するだけでは、話が進みにくくなります。

整理すべきなのは、宗教名ではなく、家庭生活に何が起きているかです。

たとえば、次のように具体的に整理します。

家事や育児に支障が出ているか
仕事や家業に支障が出ているか
子どもの学校生活に影響が出ているか
夫婦の話し合いができるか
親族の冠婚葬祭で衝突があるか
別居が続いているか
相手が家庭生活への配慮をしているか
自分にも暴力や人格否定などの問題がないか

裁判例でも、信仰そのものより、家庭生活への影響、夫婦関係の破綻の程度、回復可能性が重視されています。

子どもへの影響

宗教活動が子どもに関わる場合は、特に慎重に考える必要があります。

子どもが宗教活動に参加するかどうか。
学校行事に参加できるか。
友人関係に影響が出ているか。
子ども自身の気持ちはどうか。
父母の対立に子どもが巻き込まれていないか。

このような点が問題になります。

親の信仰や価値観を子どもに伝えること自体が、ただちに問題になるわけではありません。

しかし、子どもの生活、学業、健康、安全、意思が軽視されている場合は、親権、監護、親子交流の判断にも影響することがあります。

離婚協議で整理すること

宗教を理由に夫婦関係が悪化している場合でも、離婚するには条件整理が必要です。

離婚原因だけでは、離婚後の生活は決まりません。

協議離婚では、次の内容を分けて整理します。

離婚するかどうか
別居中の婚姻費用
財産分与
慰謝料の有無
養育費
親権・監護
親子交流
子どもの宗教活動への関わり
年金分割
住まい
清算条項

宗教活動について、離婚後も子どもに関係する可能性がある場合は、親子交流や監護の内容とあわせて整理する必要があります。

まとめ

宗教を信じること自体は、離婚原因ではありません。

信教の自由は憲法で保障されています。

ただし、宗教活動によって夫婦の共同生活が成り立たなくなり、家庭生活、子どもの生活、仕事、親族関係に大きな支障が出ている場合は、婚姻を継続し難い重大な事由として問題になることがあります。

裁判では、宗教名ではなく、家庭生活への影響、夫婦間の配慮、別居期間、子どもへの影響、婚姻関係の回復可能性が見られます。

宗教を理由に離婚を考える場合は、感情的な非難ではなく、家庭生活に何が起きているのかを整理することが大切です。

そのうえで、子ども、お金、住まい、親子交流、財産分与などの離婚条件を、離婚協議書や公正証書に残せる形で整理します。

目次