養育費を取り決めても、支払いが途中で滞ることがあります。
最初は支払われていても、数か月後に遅れ始めることがあります。転職、再婚、収入の減少、親同士の関係悪化などをきっかけに、支払いが止まることもあります。
養育費は、子どもの生活費です。支払いが止まった場合は、感情だけで対応せず、どの書面があるのか、どの手続が使えるのかを確認する必要があります。
2026年4月1日から、養育費の支払確保に関する制度が見直されています。法定養育費、養育費の先取特権、ワンストップ執行手続などが新しく関係します。制度全体については、法務省の案内で確認できます。 (法務省)
まず確認すること
養育費の支払いが滞ったときは、最初に次のことを確認します。
養育費の取決めがあるか
取決めは口約束か、書面か
離婚協議書があるか
公正証書があるか
調停調書、審判書、判決書があるか
未払い額はいくらか
いつから支払われていないか
相手の勤務先が分かるか
相手の預金口座が分かるか
相手に支払能力があるか
どの書面があるかによって、使える手続が変わります。
口約束だけの場合と、公正証書や調停調書がある場合では、進め方が違います。
養育費の取決めがない場合
養育費を決めないまま協議離婚した場合でも、2026年4月1日以降は、法定養育費を請求できる制度があります。
法定養育費は、養育費の取決めがない場合に、子どもを主に監護する親が、もう一方の親へ請求できる暫定的な養育費です。
金額は、子ども1人あたり月額2万円です。
ただし、これは養育費の標準額ではありません。父母の収入、子どもの人数、年齢、進学、医療費などを反映した金額ではありません。
法定養育費は、養育費を決めるまでの応急的な制度です。子どもの生活に合わせた養育費を決めるには、別に話し合い、調停、審判などで具体的な金額を定める必要があります。(法務省)
養育費の取決め文書がある場合
父母の間で養育費の取決め文書を作っている場合は、養育費の先取特権が問題になります。
養育費の先取特権とは、養育費の取決めに基づく債権について、一定の範囲で差押えをしやすくする制度です。
2026年4月1日以降に発生した養育費については、債務名義がなくても、父母間で作成した文書に基づいて差押えを申し立てられる場合があります。裁判所も、養育費の取決めがある場合には、月額8万円に子どもの数を掛けた額を上限として、先取特権が付与されると案内しています。詳しくは、裁判所の養育費に基づく差押えで確認できます。 (裁判所)
先取特権の上限
養育費の先取特権には上限があります。
上限は、子ども1人あたり月額8万円です。
たとえば、子ども1人について養育費を月額10万円と取り決めた場合でも、先取特権の対象になるのは月額8万円までです。
残りの月額2万円についても強制執行に備えたい場合は、公正証書、調停調書、審判書、判決書などの債務名義を確認する必要があります。
月額10万円の取決めが無効になるわけではありません。ただし、先取特権だけで回収できる範囲には上限があるということです。
公正証書がある場合
養育費について、公正証書を作っている場合があります。
ただし、公正証書なら何でも強制執行に使えるわけではありません。
強制執行に備えるには、支払い義務の内容が明確であり、強制執行認諾文言が入っていることが重要です。
公正証書で確認する主な内容は、次のとおりです。
養育費の月額
支払日
支払期間
支払口座
支払いが遅れた場合の扱い
強制執行認諾文言
進学費用や医療費の扱い
住所や勤務先変更時の通知
公正証書がある場合は、養育費の全額について強制執行を検討できます。
この点が、月額8万円を上限とする先取特権との違いです。
強制執行とは
強制執行とは、支払いの約束を守らない相手に対して、裁判所の手続により、給与や預貯金などを差し押さえる手続です。
養育費で差押えの対象になりやすいものは、次のような財産です。
給与
賞与
預貯金
売掛金
不動産
公正証書や調停調書があっても、自動的にお金が入ってくるわけではありません。
相手が支払わない場合は、差押えの申立てが必要です。
給与の差押え
養育費については、給与の差押えが問題になることがあります。
通常の金銭債権では、給与の差押えは原則として4分の1までです。
一方、養育費などの場合は、特例として給与の2分の1まで差し押さえることができる場合があります。裁判所も、養育費については給料などの2分の1に相当する部分まで差し押さえることができると案内しています。(裁判所)
また、養育費のように継続的に支払われるお金については、一定の場合に、将来支払期日が来る分についても給与から継続的に回収できることがあります。
ただし、実際にどこまで差押えできるかは、債務名義の内容、未払い額、相手の収入、差押禁止の範囲などによって変わります。
ワンストップ執行手続
2026年4月1日から、養育費等のワンストップ執行手続が導入されています。
これは、養育費などを請求する人の負担を軽くするため、財産開示手続、第三者からの情報取得手続、給与債権の差押手続を、1回の申立てで連続的に進められる仕組みです。
相手の勤務先や財産が分からない場合、これまでは手続が分かりにくく、負担も大きいものでした。ワンストップ執行手続は、その負担を軽くするための制度です。
裁判所は、養育費等のワンストップ執行手続について、財産開示や第三者からの情報取得の手続を案内しています。 (裁判所)
間接強制とは
間接強制とは、支払いなどをしない相手に対して、一定の制裁金を支払うよう裁判所が命じることで、履行を促す手続です。
養育費についても、事情によって間接強制が問題になることがあります。
ただし、養育費の回収では、給与や預貯金を差し押さえる直接強制が中心になります。
間接強制は、相手に心理的な圧力をかける手続です。実際に未払い額を回収するには、直接強制、先取特権に基づく差押え、ワンストップ執行手続などを確認する必要があります。
直接連絡をする場合の注意
養育費が遅れた場合、まずは相手に連絡して確認することがあります。
ただし、感情的なやり取りは避けた方がよいです。
支払期限を過ぎていること
未払い額
いつまでに支払ってほしいか
今後の支払予定
振込先
これらを短く確認します。
暴力、脅し、強い対立、相手からの嫌がらせがある場合は、無理に直接連絡をしない方がよいです。
その場合は、弁護士や家庭裁判所の手続を検討します。
内容証明を送る場合
支払いが滞っている場合、内容証明郵便で支払いを求めることがあります。
内容証明は、いつ、どのような内容の文書を出したかを郵便局が証明する制度です。
ただし、内容証明を出しただけで強制的に回収できるわけではありません。
内容証明は、相手に支払いを求める通知です。相手が支払わない場合は、その後に差押えなどの手続を検討することになります。
強制執行まで考えるときに必要な情報
強制執行まで考える場合は、相手の情報が重要です。
相手の住所
勤務先
給与振込口座
預金口座
勤務形態
収入資料
事業をしている場合の取引先
財産の所在
これらが分からないと、差押えを進めるときに困ることがあります。
ワンストップ執行手続や第三者からの情報取得手続を使える場合もありますが、最初からすべて自動で分かるわけではありません。
手続に必要な資料や条件を確認する必要があります。
養育費の不払いで避けること
養育費が支払われない場合でも、避けるべきことがあります。
感情的な長文を送る
子どもに相手への連絡をさせる
親子交流を一方的に止める
相手の勤務先に不用意に連絡する
SNSで相手を非難する
相手の財産を勝手に持ち出す
養育費と親子交流は、どちらも子どものためのものです。
養育費が支払われないからといって、親子交流を当然に止められるわけではありません。
一方で、親子交流に問題がある場合は、家庭裁判所の手続や弁護士相談を検討する必要があります。
まとめ
養育費が支払われない場合は、まず書面を確認します。
養育費の取決めがない場合は、法定養育費が問題になります。
父母間の取決め文書がある場合は、養育費の先取特権が問題になります。
公正証書、調停調書、審判書、判決書などがある場合は、債務名義に基づく強制執行を検討します。
養育費の先取特権の上限は、子ども1人あたり月額8万円です。
月額8万円を超える養育費や、財産分与、慰謝料、解決金なども含めて強制執行に備える場合は、公正証書などの債務名義が重要になります。
養育費は、子どもの生活を支えるためのお金です。支払いが滞ったときは、感情で動かず、書面、未払い額、相手の勤務先や財産、使える手続を順番に確認することが大切です。
