協議離婚は、夫婦が離婚に合意し、離婚届が市区町村役場で受理されることで成立します。
公正証書に「離婚する」と書いただけでは、協議離婚は成立しません。協議離婚は、民法763条、764条、739条により、離婚届の届出によって効力が生じます。法務省の離婚届の案内でも、協議離婚の根拠として民法764条、739条、戸籍法76条などが示されています。(e-Gov 法令検索)
そのため、公正証書では、単に「離婚する」と書くだけでなく、離婚届を誰が、いつ、どのように提出するのかを明確にしておきます。
話し合いで確認する家族関係
公正証書では、夫婦と子どもを、甲、乙、丙などの記号で表すことがあります。
たとえば、次のように整理します。
夫 山田太郎 甲
妻 山田花子 乙
長男 山田一郎 丙
長女 山田美香 丁
次女 山田里香 戊
未成年の子については、生年月日も記載します。
生年月日を書くことで、養育費の終期、親権者、監護者、親子交流などの条項と結びつけやすくなります。
協議離婚の合意で書くこと
協議離婚の合意条項では、まず、夫婦が協議離婚することに合意していることを書きます。
次に、離婚届を提出する人と、提出時期を書きます。
子どもがいる場合は、親権者をどうするかも確認します。
2026年4月1日施行の民法等改正により、離婚後の親権については、父母双方を親権者とすることも、父母の一方を親権者とすることもできるようになっています。法務省も、協議離婚では、父母の協議により、父母双方を親権者とするか、父母の一方を親権者とするかを定めると説明しています。(法務省)
ただし、このページでは、協議離婚の合意条項の書き方を扱います。親権者、監護者、養育費、親子交流の細かい書き方は、後続の各ページで整理します。
離婚届の受理を条件にする理由
財産分与や離婚後の養育費は、離婚と結びついて問題になる内容です。
そのため、公正証書では、離婚届が受理されることを前提にして書くのが基本です。
たとえば、次のように分けます。
離婚届が受理された後に発生するもの
財産分与、離婚後の養育費、離婚後の親子交流
離婚前から発生しているもの
未払い婚姻費用、別居中の生活費の清算
ここを分けずに書くと、離婚届が出されなかった場合に、支払い義務がいつ発生するのか分かりにくくなります。
不受理申出がある場合
協議離婚届について不受理申出がされている場合、離婚届は受理されません。
そのため、離婚届を提出する予定がある場合は、不受理申出がされていないかを確認する必要があります。
ただし、「不受理申出をしない」と一律に書くことは慎重に考えるべきです。
不受理申出は、本人の意思に反して離婚届が出されることを防ぐための制度でもあります。
大切なのは、夫婦双方が真意に基づいて離婚に合意し、届出時点でも離婚意思があることです。
公正証書の記載例
以下は、公正証書に入れる場合の書き方の例です。
実際には、離婚届を誰が持っているか、いつ提出するか、子どもがいるか、親権者をどうするかによって書き分けます。
例1 離婚することだけを確認する場合
甲と乙は、協議離婚することに合意する。
この書き方は簡潔です。
ただし、これだけでは、誰がいつ離婚届を提出するのかが分かりません。
公正証書に入れる場合は、次のように、届出の方法まで書く方が実務上は安全です。
例2 離婚届に署名済みの場合
甲と乙は、協議離婚することに合意し、離婚届にそれぞれ署名した。
甲は、令和○年○月○日までに、前項の離婚届を市区町村役場へ提出する。
この形では、離婚届に署名済みであることと、提出する人を明確にしています。
現在、離婚届の押印は義務ではありません。
そのため、条項では「署名押印」ではなく、「署名」と書くのが基本です。
例3 妻が署名した離婚届を夫に託す場合
甲と乙は、本日、協議離婚することに合意した。
乙は、離婚届に必要事項を記入し、署名したうえで、甲にその提出を託す。
甲は、令和○年○月○日までに、前項の離婚届を市区町村役場へ提出する。
この書き方は、一方が離婚届を預かって提出する場合に使います。
提出期限を入れておくと、届出が放置されることを避けやすくなります。
例4 未成年の子がいる場合
甲と乙は、協議離婚することに合意する。
甲と乙は、甲乙間の長男山田一郎(平成○年○月○日生)及び長女山田美香(平成○年○月○日生)の親権者を、乙と定める。
甲は、令和○年○月○日までに、乙が署名した離婚届を市区町村役場へ提出する。
この例は、母を親権者とする場合です。
父を親権者とする場合は、「親権者を、甲と定める」と書きます。
父母双方を親権者とする場合は、次のように書きます。
甲と乙は、甲乙間の長男山田一郎(平成○年○月○日生)及び長女山田美香(平成○年○月○日生)の親権者を、父母双方と定める。
共同親権にする場合は、親権者の記載だけで終わらせず、監護者、子どもの住まい、重要事項の協議方法を別条項で定める必要があります。
例5 離婚届の受理を条件として財産分与をする場合
甲と乙は、協議離婚届が受理されることを条件として、次のとおり財産分与を行う。
甲は乙に対し、財産分与として金○万円を、令和○年○月○日限り、乙の指定する預金口座へ振り込む方法により支払う。
この書き方では、離婚届が受理されることを条件にしています。
離婚が成立しない場合に、財産分与だけが先に動くことを避けるためです。
例6 離婚届の受理を条件として養育費を定める場合
甲と乙は、協議離婚届が受理されることを条件として、長男山田一郎及び長女山田美香の養育費について、次のとおり合意する。
甲は乙に対し、長男及び長女の養育費として、子1人につき月額○万円を、毎月末日限り、乙の指定する預金口座へ振り込む方法により支払う。
この書き方では、離婚後の養育費として整理しています。
離婚前の生活費については、養育費ではなく、婚姻費用として別に書きます。
例7 未払い婚姻費用を別に定める場合
甲は乙に対し、令和○年○月分から令和○年○月分までの未払い婚姻費用として、金○万円を支払う。
甲は、前項の金員を、令和○年○月○日限り、乙の指定する預金口座へ振り込む方法により支払う。
この条項は、離婚前の生活費の清算です。
財産分与や離婚後の養育費とは分けて記載します。
例8 売却代金を財産分与と養育費に分ける場合
甲と乙は、協議離婚届が受理されることを条件として、乙が管理するマンションの売却代金1100万円を、次のとおり配分する。
甲と乙は、婚姻中に取得した財産の清算として、各自金275万円を取得する。
乙は、甲に対し、前項の財産分与として金275万円を、令和○年○月○日限り、甲の指定する預金口座へ振り込む方法により支払う。
甲は乙に対し、丙及び丁の養育費の一括前払い分として、子1人につき金275万円、合計金550万円を支払うものとし、乙は、前記売却代金のうち金550万円を取得する。
甲及び乙は、丙又は丁について、進学、病気、事故その他特別の事情が生じた場合には、養育費の追加分担について別途協議する。
この形では、財産分与と養育費を分けて書いています。
同じ売却代金から支払う場合でも、財産分与なのか、養育費なのかを分けないと、後で意味が分かりにくくなります。
また、養育費を一括で定める場合でも、子どもの進学、病気、事故などの事情が後から生じることがあります。
そのため、必要に応じて別途協議する条項を入れておく方が安全です。
この条項で避けたい書き方
協議離婚の合意条項では、次の書き方は避けた方がよいです。
- 甲と乙は、本日、協議離婚する
- 甲と乙は、離婚した
- 甲は、必ず離婚届を受理させる
- 乙は、不受理申出をしない
- 養育費と財産分与をまとめて支払う
- 離婚届の受理前に、離婚後の養育費として支払う
「本日、協議離婚する」という表現は、離婚届がまだ受理されていない場合には誤解を招きます。
正確には、「協議離婚することに合意する」と書きます。
離婚の効力は、離婚届が受理されてから生じます。
まとめ
協議離婚の合意条項では、夫婦が離婚する意思を確認し、離婚届を誰が、いつ提出するかを明確にします。
公正証書に「離婚する」と書いただけでは、協議離婚は成立しません。
離婚届が市区町村役場で受理されて、はじめて協議離婚の効力が生じます。
未成年の子がいる場合は、親権者を記載します。
2026年4月1日以降は、父母双方を親権者とすることも、父母の一方を親権者とすることもできます。
共同親権にする場合は、監護者、子どもの住まい、重要事項の協議方法を別条項で整理します。
財産分与や離婚後の養育費は、離婚届の受理を条件にして書くのが基本です。
一方で、離婚前の未払い生活費は、婚姻費用として別に書きます。
