協議離婚とは、夫婦が話し合いで離婚に合意し、離婚届を市区町村役場へ提出して成立する離婚です。裁判所を通さずに進められるため、最も多い離婚の形です。
ただし、離婚届を出すだけでは、離婚後のお金や子どものことは整理されません。養育費、財産分与、慰謝料、年金分割、親子交流、住まい、住宅ローンなどを決めないまま離婚すると、後から「言った」「聞いていない」という問題が起きやすくなります。
2026年4月1日から、父母の離婚後の子の養育に関する民法等の改正が施行されています。親権、養育費、親子交流、財産分与などのルールが見直されていますので、古い知識のまま協議離婚を進めないことが大切です。
協議離婚の基本的な流れ
協議離婚は、先に離婚届を出すか、先に条件を決めるかで、離婚後の安全性が大きく変わります。お金や子どものことがある場合は、先に条件を整理し、書面にしてから離婚届を出す流れが基本です。
1 離婚するかどうかを話し合う
2 子ども、お金、住まい、氏、戸籍などを整理する
3 合意できる項目と、まだ決まらない項目を分ける
4 離婚協議書又は公正証書にする
5 離婚届を提出する
6 年金分割、氏の届出、住所変更、児童扶養手当などの手続きを行う
口頭の約束だけでは、後から確認できません。離婚後に毎月支払う養育費、分割払いの財産分与、慰謝料などがある場合は、金額、支払日、支払期間、振込先を明確にした書面が必要です。
離婚協議書と公正証書
離婚協議書とは、夫婦で合意した離婚条件を書面にしたものです。養育費、財産分与、慰謝料、年金分割、親子交流など、離婚後に残る約束を確認するために作成します。
公正証書は、公証役場で作成する公文書です。養育費、財産分与、慰謝料などの金銭の支払いについて、強制執行認諾文言を入れておくと、支払いが滞った場合に、裁判を起こさずに強制執行の申立てを検討できる形になります。
ただし、「公正証書を作れば自動的に回収できる」という意味ではありません。実際に差押えをするには、相手の勤務先、預貯金口座、不動産などの情報が問題になります。公正証書は、未払いが起きたときのために、支払義務を明確にしておく書面です。
夫婦で話し合う項目
離婚そのもの
まず、離婚することに双方が合意しているかを確認します。あわせて、離婚届を誰が、いつ、どの市区町村へ提出するかを決めます。
離婚届を先に出すと、後から条件を決めにくくなることがあります。特に、養育費、財産分与、年金分割、不動産がある場合は、離婚届の提出時期を慎重に決めます。
親権と監護
2026年4月1日以降の離婚では、父母の話し合いにより、離婚後の親権者を父母双方にするか、父母の一方にするかを決めることができます。話し合いで決まらない場合や、子どもの利益のために必要がある場合は、家庭裁判所が判断します。
父母の一方を親権者にする場合でも、父母双方を親権者にする場合でも、子どもが主にどちらと暮らすのか、日常の監護を誰が担うのかを決める必要があります。共同親権を選ぶ場合は、学校、医療、転居、進学などの重要事項をどう決めるかも整理しておく必要があります。
養育費
養育費は、子どもの生活、教育、医療、成長のために必要なお金です。父母の収入、子どもの年齢、人数、生活状況をもとに決めます。家庭裁判所の調停や審判では、養育費算定表が目安として参照されることが一般的です。
決める項目は、月額、支払開始月、支払終了時期、支払日、振込先、振込手数料、進学費用や医療費などの特別費用です。18歳まで、20歳まで、大学等卒業までなど、支払終了時期も明確にします。
2026年4月1日施行の改正により、養育費の取決めがない場合にも、一定の要件のもとで暫定的な養育費を請求できる法定養育費制度が新設されています。また、養育費の取決めに基づく支払確保の仕組みも見直されています。
親子交流
親子交流は、離婚後に子どもが別居する親と交流することです。以前は「面会交流」と呼ばれることが多くありましたが、現在は「親子交流」という表現が使われています。
決める項目は、頻度、時間、場所、受け渡し方法、連絡方法、宿泊の有無、学校行事への参加、子どもの体調不良時の対応などです。親の都合だけで決めるのではなく、子どもの年齢、生活リズム、気持ち、安全を優先して決めます。
DV、虐待、強い支配関係、連れ去りのおそれがある場合は、安全確保が先です。無理に直接話し合わず、弁護士、家庭裁判所、配偶者暴力相談支援センターなどへの相談を検討します。
財産分与
財産分与は、夫婦が婚姻中に協力して築いた財産を、離婚の際に分ける制度です。名義が夫婦のどちらになっているかだけでは決まりません。
確認するものは、預貯金、不動産、住宅ローン、保険、車、株式、投資信託、退職金、借入金などです。まず財産一覧を作り、対象になる財産とならない財産を分けます。
2026年4月1日施行の改正により、財産分与を家庭裁判所に請求できる期間は、離婚後2年から5年に延長されました。ただし、2026年3月31日以前に離婚した場合は、従前どおり2年です。
慰謝料
慰謝料は、不貞、暴力、精神的な虐待などにより、精神的苦痛を受けた場合に問題になるお金です。離婚すれば必ず慰謝料が発生するわけではありません。
慰謝料を決める場合は、原因、金額、支払日、支払方法、分割払いの有無を明確にします。慰謝料の有無や金額で争いがある場合は、行政書士が相手と交渉することはできません。弁護士に相談する場面です。
年金分割
年金分割は、婚姻期間中の厚生年金記録を分割する制度です。相手の年金そのものを半分受け取る制度ではありません。国民年金の老齢基礎年金は、年金分割の対象にはなりません。
年金分割をする場合は、年金分割のための情報通知書を取得し、合意分割が必要か、3号分割だけで足りるかを確認します。合意分割では、按分割合を定め、年金事務所等で請求手続を行います。
年金分割の請求期限は、2026年4月1日以降に離婚等をした場合は、原則として離婚等をした日の翌日から5年以内です。2026年4月1日前に離婚等をした場合は、従前どおり2年以内です。
住まいと住宅ローン
離婚後に、誰がどこに住むかを決めます。持ち家の場合は、所有名義、住宅ローン名義、連帯債務、連帯保証、不動産の売却、一方が住み続ける場合の支払方法を確認します。
不動産の名義変更には登記が必要です。登記は司法書士の業務です。また、不動産を財産分与で移転する場合には、税金の確認が必要になることがあります。必要に応じて、税理士にも確認します。
住宅ローンがある家を、名義だけ、居住だけ、支払いだけに分けて考えると危険です。誰が所有し、誰が住み、誰がローンを払い、金融機関の承諾が必要かを確認します。
氏と戸籍
離婚後の氏をどうするかを確認します。婚姻により氏を変えた人は、離婚により原則として婚姻前の氏に戻ります。ただし、離婚の際に称していた氏をそのまま使うための届出をすることもできます。
子どもの氏と戸籍は、親の離婚によって自動的に同居親と同じになるわけではありません。子どもの氏を変更する場合は、家庭裁判所の許可など別の手続きが必要になります。
離婚後の生活
離婚後の生活費、住まい、仕事、子どもの学校、通勤、通学、医療、保険、公的支援を確認します。児童扶養手当、児童手当、ひとり親家庭向けの支援、医療費助成などは、市区町村の窓口で確認します。
ここは、感情ではなく数字で確認します。毎月いくら入るのか、いくら出ていくのか、家賃、光熱費、食費、通信費、教育費、保険料、車の維持費を出します。離婚後に生活が成り立つかを先に見ておくことが必要です。
個人で確認しておくこと
離婚の話し合いを始める前に、自分側で資料を集めておくと、条件整理がしやすくなります。
預貯金通帳
給与明細
源泉徴収票
課税証明書
保険証券
解約返戻金の資料
住宅ローン残高証明書
固定資産税通知書
不動産登記事項証明書
証券口座の残高資料
退職金見込額の資料
借入金やカードローンの資料
年金番号又は基礎年金番号が分かるもの
子どもの学校、塾、医療費の資料
別居中の生活費の記録
話し合いの経過も残しておきます。日付、話した内容、相手の回答、送った書類、受け取った書類を整理します。感情を書き連ねる日記ではなく、後から事実を確認できる記録として残します。
お金の準備
離婚では、生活費、転居費用、書類作成費用、専門家費用、子どもの費用が必要になります。金額は家庭によって異なります。古い相場や一律の目安だけで判断しない方が安全です。
確認する費用は、次のとおりです。
当面の生活費
引越し費用
新居の初期費用
家具、家電の購入費
子どもの学校関係費
法律相談費用
離婚協議書又は公正証書の作成費用
公証役場手数料
弁護士費用が必要になる場合の費用
相手と争いが強い場合、慰謝料や財産分与で対立している場合、DVやモラハラがある場合、親権や親子交流で大きな対立がある場合は、弁護士費用も見ておく必要があります。行政書士は、離婚協議書や公正証書案の作成支援はできますが、相手との代理交渉、調停代理、裁判代理はできません。
話し合いの注意点
離婚届を先に出さない
お金や子どもの条件が決まっていない段階で離婚届を出すと、後から相手が話し合いに応じなくなることがあります。特に養育費、財産分与、年金分割、不動産がある場合は、離婚届の提出前に書面化を検討します。
決める項目を絞る
離婚の話し合いでは、過去の不満をすべて整理しようとすると、条件の話が進まなくなります。まず決めるべきものは、子ども、お金、住まい、手続きです。
そのうえで、合意できるものから書面にします。合意できないものがある場合は、無理に押し切らず、調停や弁護士相談を検討します。
代理交渉を頼まない
行政書士は、離婚協議書、公正証書案、合意書、内容証明などの書類作成支援を行うことができます。一方で、相手と交渉したり、相手を説得したり、調停や裁判で代理人として活動したりすることはできません。
相手との対立が強い場合は、弁護士に相談する場面です。書面作成で整えられる状態なのか、交渉や調停が必要な状態なのかを分けて考えます。
安全面を先に見る
DV、脅迫、暴力、強い支配、子どもへの危険がある場合は、通常の協議離婚として進めない方がよいことがあります。直接話し合うことが危険な場合は、先に安全確保を考えます。
この場合は、配偶者暴力相談支援センター、警察、弁護士、自治体の相談窓口などにつなげる場面です。離婚協議書を作る前に、身の安全と子どもの安全を確認します。
協議がまとまらない場合
夫婦の話し合いでまとまらない場合は、家庭裁判所の調停を利用することがあります。調停では、調停委員を通じて、離婚、親権、養育費、財産分与、慰謝料、親子交流などを話し合います。
調停でもまとまらない場合は、審判や訴訟へ進むことがあります。親権、財産分与、慰謝料、不動産、DV、強い対立がある場合は、早い段階で弁護士に相談した方がよいことがあります。
協議離婚で大切なのは、相手を言い負かすことではありません。離婚後に残るお金と子どもの約束を、確認できる書面にすることです。条件がまとまる見込みがある場合は、離婚協議書や公正証書にして、後から困らない形に整えておくことが大切です。
