家族の縁切りを依頼される前に、私が必ず確認すること

「もう関わりたくない」

最近、親や兄弟との関係について、そのような相談が続いています。離婚でもない。離縁でもない。相続争いでもない。ただ、「家族関係そのものを終わらせたい」という相談です。

しかし私は、その言葉を聞いてすぐに「どうやって縁を切るか」という話には入りません。まず全体像を確認します。長年の役割、固定された関係、それぞれの感情。言葉になっていない背景に何があるのかを見ています。

目次

縁切りは手続きではなく、状態です

そもそも「家族と縁を切る」という法的な手続きは存在しません。養子縁組の解消は別の話です。離婚届のような書類もありません。相続放棄のように、一度の手続きで終わる制度もありません。

大切なのは、「もう関わらなくても平穏に暮らせる状態」をつくることです。そのためには、固定化された関係から距離を取り、生活を分けていく必要があります。連絡経路を整理する。権利関係を整理する。必要に応じて書面に残す。そうした積み重ねによって、関わらなくても生活が回る状態をつくっていきます。

1 未処理の権利関係が残っていないか

親名義の家に住んでいる。相手が保証人になっている。共有名義の財産がある。こうした状態が残ったまま連絡を断っても、いずれ再び接触しなければならない場面が訪れます。相続が始まれば、なおさら避けられません。関係を終わらせる前に、先に整理すべきものが残っていないかを確認する必要があります。

2 本当に連絡を断てば終わる相手なのか

電話を取らない。LINEをブロックする。それで終わる相手なら、それ以上の対応は必要ありません。問題は、無視しても接触を続ける場合です。自宅を知っている。職場に来る可能性がある。周囲を巻き込んで連絡してくる。そのような場合は、書面だけでは足りません。住環境や連絡手段も含めて、生活そのものを見直す必要があります。

3 縁を切った後に守りたいものは何か

平穏な生活なのか。子どもへの影響なのか。精神的な負担を減らすことなのか。守りたいものが曖昧なままでは、「どこまでやれば終わりなのか」が分からなくなります。縁切りそのものが目的ではありません。縁切りは手段です。守りたいものを守れる状態をつくることが、本当の目的です。

私ができることと、できないこと

行政書士は、感情の仲裁をする立場ではありません。関係修復のための話し合いを行う仕事でもありません。できるのは、意思を言葉にすることです。必要な書面を整えることです。連絡や財産など、生活上の結びつきを整理することです。

正直に言えば、この分野には積極的に踏み込みたいとは思っていません。労力が大きく、誰かだけが悪いという話ではないからです。それぞれに事情があります。それぞれに正義があります。だからこそ、相手が接触をやめない場合や、脅迫や執拗な嫌がらせがある場合には、弁護士や警察の力が必要になります。

民法では、直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務を負うとされています。しかし、それは常に一緒に暮らし、関わり続けなければならないことを意味するものではありません。法律上のつながりが残ることと、生活上の距離をどう取るかは別の問題です。現実には、平穏を守るために距離を置かざるを得ないこともあります。

家族の縁切りという言葉を使われる方は多いです。しかし実際には、完全に切ることでも、元に戻ることでもなく、それはそれとして分けて生きるという形に落ち着くことも少なくありません。

私は、どこまで関わり、どこから分けて生きるのか。その境界線を整理する場面に立ち会ってきました。

目次