離婚の話はしていました。
財産分与のこと。
住まいのこと。
子どものこと。
決めることは決めていました。
でもその方は後になって言いました。
「話し合っていた時間より、黙っていた時間の方が長かった気がします」
お互いに言いたいことはありました。
怒りもありました。
不満もありました。
実際に、ぶつかることもありました。
でも、それとは別に、言葉にならない何かが残っていました。
何なのかは分かりませんでした。
ただ、何かが残っていました。
だから、話をしていても、途中で止まることがありました。
財産分与の話をしているはずなのに、急に言葉が続かなくなる。
条件はまとまっている。
それでも、何かが引っかかる。
その理由を、お互い説明できませんでした。
「憎いなら、もっと簡単だった気がします」
その方は言いました。
「嫌いなら嫌いで、全部相手のせいにできたと思うんです」
少し考えてから、続けました。
「でも、それも違ったんです」
長い時間を一緒に過ごしていました。
結婚したのも自分でした。
家族になろうと思ったのも自分でした。
子どもを育ててきた時間もありました。
楽しかった日もありました。
だから、全部を否定する言葉だけでは終われませんでした。
もちろん、そんなことを考えながら話していたわけではありません。
ただ、言葉にならないまま残っていました。
だから沈黙になりました。
後になって、その方が言いました。
「許したわけではありません」
「納得したわけでもありません」
「でも、全部間違いだったとも言えませんでした」
その言葉が残りました。
「最後まで相手の問題だと思っていました」
少し考えてから、こう続けました。
「でも違ったんですね」
「全部相手のせいだと言い切れなかったんです」
「私が選んだ人でしたから」
