「仲直りできるとでも思ってんの? そっちも離婚したかやろ。」
離婚の話し合いでは、そんな言葉が飛び交います。
離婚したいなら、この条件でお願いします。
本来ならそういう話のはず。
それなのに話がかみ合わない。
話し合っているはずなのに話が進まない。
決めようとしているのに決められない。
終わらせたいのに終わらない。
離婚では、ときどき説明のつかないことが起きます。
その滞り(とどこおり)の奥に、名無しがいます。
怒りかもしれません。
後悔かもしれません。
責任かもしれません。
期待かもしれません。
「あのとき違う選択をしていれば」という痛みかもしれません。
本人にも正体が分からないまま残っているものです。
名無しは景色を曇らせます。
話を進まなくさせます。
自分を苦しめます。
相手が敵に見えます。
離婚問題解決の鍵は、相手を説得することではありません。
何が話を進まなくしているのかを見つけることです。
私の仕事は、名無しに名をつけることです。
整理するというのは、名前のないものに輪郭を与えることです。
そして、書に綴じます。
離婚協議書。
公正証書。
これらは単なる書類ではありません。
決めたことを残し、人が抱え続けなくてよくするための器です。
書に綴じることで、怒りは消えません。
後悔も消えません。
過去も消えません。
消えるのは、自分とそれが一つだった状態です。
怒りは怒りとして。
後悔は後悔として。
責任は責任として。
それぞれが、あるべき場所へ還ります。
人は再び現在を生きられます。
名もなきものは漂います。
名を持つことで鎮まります。
書が、それを綴じます。
