「取り消す」ではなく、離婚の無効を確認する
夫婦が離婚に合意していないのに、一方が勝手に離婚届を作成して提出した場合、その協議離婚は有効ではありません。
協議離婚が有効に成立するには、離婚届を出す時点で、夫婦双方に離婚する意思があることが必要です。裁判所も、夫婦の一方が他方に無断で届け出た協議離婚は、他方が追認しない限り無効であると説明しています。(裁判所)
ただし、市区町村役場の窓口では、夫婦双方に本当に離婚意思があるかを細かく調べることはできません。そのため、離婚届が受理されると、戸籍には離婚の記載がされます。
この場合に必要なのは、役所で「離婚届を取り消してください」と求めることではありません。
家庭裁判所で、協議離婚が無効であることを確認する手続を行い、その後、戸籍を訂正する流れになります。
まず確認すること
勝手に離婚届を出された疑いがある場合は、まず戸籍を確認します。
離婚届が本当に受理されているか
いつ受理されたか
どこの市区町村役場で受理されたか
離婚届にどのような記載がされているか
自分の署名があるか
筆跡が自分のものか
証人欄がどうなっているか
確認する資料としては、戸籍全部事項証明書、離婚届の記載事項証明書などが考えられます。
裁判所の協議離婚無効確認調停でも、標準的な添付書類として、申立人と相手方の戸籍謄本、離婚届の記載事項証明書などが挙げられています。(裁判所)
協議離婚無効確認調停
勝手に出された離婚届による戸籍の記載を訂正するには、家庭裁判所に協議離婚無効確認調停を申し立てます。
この調停では、離婚届が出された当時、夫婦双方に離婚意思があったかどうかを確認します。
当事者の間で、先に届け出られた協議離婚が無効であるという合意ができ、家庭裁判所が必要な調査をしたうえで、その合意が正当と認められる場合は、合意に従った審判がされます。(裁判所)
相手が「勝手に出したわけではない」「以前から離婚に合意していた」と争う場合は、調停だけで終わらないことがあります。その場合は、訴訟で離婚無効を確認する必要が出ることがあります。
この段階では、弁護士への相談を検討する場面です。
申立てができる人
協議離婚無効確認調停を申し立てることができるのは、主に次の人です。
協議離婚した夫
協議離婚した妻
離婚無効について直接確認の利益を有する親族その他の第三者
裁判所は、申立人として、協議離婚した夫または妻のほか、離婚無効について直接確認の利益を有する第三者も挙げています。(裁判所)
申立先
申立先は、次の家庭裁判所です。
相手方の住所地を管轄する家庭裁判所
当事者が合意で定める家庭裁判所
申立先は「家庭裁判所」です。市区町村役場ではありません。
申立てに必要な費用
裁判所が案内している協議離婚無効確認調停の費用は、次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 収入印紙 | 1,200円分 |
| 郵便料 | 申立先の裁判所ごとに異なる |
郵便料金や納付方法は変わるため、申立先の家庭裁判所で確認します。裁判所も、必要な郵便料は裁判所ごとに異なると説明しています。(裁判所)
申立てに必要な書類
協議離婚無効確認調停では、標準的には次の書類を準備します。
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| 申立書 | 裁判所所定の書式 |
| 申立書の写し | 相手方の人数分 |
| 申立人の戸籍謄本 | 戸籍全部事項証明書 |
| 相手方の戸籍謄本 | 戸籍全部事項証明書 |
| 離婚届の記載事項証明書 | 離婚届の内容を確認する資料 |
| 進行に関する照会回答書 | 裁判所所定の書類 |
| 利害関係を証する資料 | 親族など第三者が申し立てる場合 |
同じ戸籍謄本が重複する場合は、同じ書類は1通で足りるとされています。
また、申立前に取得できない戸籍がある場合は、申立後に追加提出できることがあります。(裁判所)
戸籍の訂正
家庭裁判所で協議離婚が無効であることが確認されても、それだけで戸籍が自動的に直るわけではありません。
裁判所の審判や確定判決などをもとに、市区町村役場で戸籍訂正の手続を行います。
戸籍法116条は、確定判決によって戸籍の訂正をすべきときは、訴えを提起した者が、判決確定の日から1か月以内に、判決の謄本を添付して戸籍の訂正を申請しなければならないと定めています。(e-Gov 法令検索)
実際の戸籍訂正では、必要書類や提出先を、市区町村役場で確認します。
相手が再婚している場合
勝手に離婚届を出した相手が、すでに別の人と婚姻している場合は、手続が複雑になります。
裁判所は、このような場合には、その夫または妻のほか、第三者も相手方として、婚姻取消しの調停を申し立てることも必要になると説明しています。(裁判所)
この場合は、協議離婚無効確認だけで整理できないことがあります。
早い段階で弁護士に相談した方がよい場面です。
追認に注意する
勝手に出された離婚届は、離婚意思がなければ無効です。
ただし、その後の行動によっては、無効な離婚を追認したと評価されるおそれがあります。
たとえば、離婚を前提に財産分与を受け取る、離婚後の条件として話を進める、相手の再婚を前提に対応するなどの行動は、後で問題になることがあります。
もちろん、生活費や子どもの費用のために必要な対応をすることもあります。
ただし、離婚を認める意思がない場合は、「離婚は無効であると考えている」「離婚を追認するものではない」という姿勢を明確にしておく必要があります。
住所を知られたくない場合
勝手に離婚届を出された背景に、DV、脅し、強い支配、追跡のおそれがある場合は、裁判所へ提出する書類にも注意が必要です。
家庭裁判所の手続では、申立書が原則として相手方に送付されます。また、提出書類について、相手方から閲覧や謄写の申請がされることがあります。
相手に現在の住所や勤務先、子どもの学校、通院先などを知られたくない場合は、書類にその情報を書かないこと、必要に応じて非開示希望や当事者間秘匿の手続を検討することが必要です。
裁判所に提出する資料では、住所、勤務先、マイナンバー、通院先、学校名などが見えないように、マスキングする必要がある場合があります。
まだ離婚届を出されていない場合
まだ離婚届を出されていない段階で、勝手に出されるおそれがある場合は、離婚届不受理申出を検討します。
離婚届不受理申出をしておくと、本人の意思に反して離婚届が受理されることを防ぎやすくなります。
これは、すでに出された離婚届を取り消す手続ではありません。
あくまで、これから勝手に離婚届を出されることを防ぐための手続です。
まとめ
夫婦が離婚に合意していないのに、一方が勝手に離婚届を出した場合、その協議離婚は、他方が追認しない限り無効です。
ただし、いったん離婚届が受理されると、戸籍には離婚の記載がされます。
この場合は、市区町村役場で簡単に取り消すのではなく、家庭裁判所で協議離婚無効確認調停を申し立て、必要に応じて審判や判決を得たうえで、戸籍訂正へ進みます。
相手が争う場合、相手が再婚している場合、DVや住所秘匿が必要な場合は、手続が複雑になります。
勝手に出された離婚届を知ったときは、まず戸籍と離婚届の記載事項を確認し、追認と取られる行動に注意しながら、家庭裁判所または弁護士へ相談することが大切です。
