配偶者からの暴力は、夫婦げんかではありません。
身体への暴力だけでなく、脅し、監視、無視、生活費を渡さないこと、性的な強要、スマートフォンの確認、位置情報の監視なども、相手を支配し、心身を傷つける行為です。
危険を感じるときは、離婚の話し合いより先に、安全を確保します。今すぐ危険がある場合は、110番通報を優先します。どこへ相談すればよいか分からない場合は、DV相談ナビ「#8008」から、最寄りの配偶者暴力相談支援センターにつながります。電話が難しい場合は、DV相談+の電話、メール、チャット相談を利用できます。(Gender Equality Bureau)
DVとは
DVとは、配偶者や生活の本拠を共にする交際相手などから受ける暴力です。
ここでいう暴力は、殴る、蹴るだけではありません。怒鳴る、脅す、物を壊す、無視する、生活費を渡さない、性的行為を強要する、交友関係を制限する、スマートフォンやメールを監視することも、DVとして問題になります。政府広報でも、携帯電話の履歴やメールを確認すること、怒鳴ること、責めること、脅すこと、無理やり性的な行為をすることなどが、DVの例として示されています。(政府オンライン)
DVがある場合、相手と二人だけで離婚条件を話し合うことは危険です。話し合いの場でさらに暴力や脅しが起きることがあります。まずは、警察、配偶者暴力相談支援センター、弁護士、自治体の相談窓口に相談します。
家庭内暴力の現実
DVは、特別な家庭だけで起きるものではありません。
令和5年度の内閣府調査では、結婚したことがある人の25.1%が、配偶者から暴力を受けたことがあるとされています。性別で見ると、女性27.5%、男性22.0%です。そのうち、何度も被害を受けた人は全体で10.7%、女性13.2%、男性7.2%です。(Gender Equality Bureau)
また、配偶者から暴力を受けた人の44.2%は、どこにも、誰にも相談していません。性別で見ると、女性36.3%、男性57.2%が相談していません。(Gender Equality Bureau)
相談しない理由には、「相談するほどのことではない」「自分にも悪いところがある」「自分さえ我慢すればいい」という思いがあります。しかし、暴力は、我慢で解決する問題ではありません。早い段階で、外部の相談先につながることが大切です。
保護命令
配偶者暴力防止法には、被害者を守るための保護命令制度があります。
保護命令とは、被害者の申立てにより、地方裁判所が加害者に対し、つきまといや住居付近のはいかいなどを禁止する命令です。現在の保護命令には、主に次の種類があります。(裁判所)
接近禁止命令
電話等禁止命令
子への接近禁止命令
子への電話等禁止命令
親族等への接近禁止命令
退去等命令
接近禁止命令は、1年間、被害者の身辺につきまとったり、住居、勤務先、通常いる場所の付近をはいかいしたりすることを禁止する命令です。電話等禁止命令では、面会要求、無言電話、連続した電話やSNS送信、深夜早朝の連絡、性的羞恥心を害する画像等の送信、GPSによる位置情報取得などが禁止されます。(裁判所)
退去等命令は、加害者に対し、生活の本拠としている住居から退去することなどを命じるものです。期間は原則2か月です。建物の所有者または賃借人が被害者のみである場合は、申立てにより6か月とすることができます。(裁判所)
保護命令に違反した場合は、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金が科されます。(裁判所)
保護命令の対象
保護命令は、身体への暴力だけが対象ではありません。
現在は、身体に対する暴力のほか、生命、身体、自由、名誉、財産に対して害を加える旨を告知する脅迫を受け、さらに身体に対する暴力等により生命または心身に重大な危害を受けるおそれが大きい場合にも、接近禁止命令等の申立てができます。2024年4月施行の改正により、自由、名誉、財産に対する脅迫も対象に加わり、「身体」だけでなく「心身」に重大な危害を受けるおそれがある場合まで広がりました。(Gender Equality Bureau)
また、法律婚の配偶者だけでなく、事実婚の相手、生活の本拠を共にする交際相手も対象になる場合があります。暴力を受けた後に離婚した場合でも、引き続き元配偶者から危害を受けるおそれがあるときは、保護命令の対象になります。(裁判所)
保護命令の申立先と必要な準備
保護命令の申立ては、地方裁判所に行います。
申立先は、相手方の住所地、申立人の住所または居所、暴力等が行われた地のいずれかを管轄する地方裁判所またはその支部です。申立手数料は収入印紙1,000円で、郵便切手は裁判所ごとに異なります。(裁判所)
保護命令を申し立てる前には、できるだけ警察署または配偶者暴力相談支援センターに相談しておきます。事前相談をしていない場合は、公証役場で宣誓供述書を作成する必要があります。(裁判所)
申立てに向けては、次のような資料を整理します。
いつ、どこで、どのような暴力や脅しがあったか
けがをした場合の診断書や写真
壊された物の写真
LINE、メール、SNS、録音などの記録
警察や支援センターに相談した日
子どもや親族にも危険が及ぶ事情
避難先や現在の生活状況
証拠を集めるために危険な行動をする必要はありません。身の安全を確保できる範囲で、残っている資料を整理します。
ストーカー規制法を使う場面
別居後や離婚後に、つきまとい、待ち伏せ、押しかけ、無言電話、連続した連絡、位置情報の無断取得などがある場合は、ストーカー規制法も問題になります。
ストーカー規制法では、つきまとい等や位置情報無承諾取得等を繰り返す行為が規制されています。警察は、被害者の申出に応じて、警告や禁止命令などの措置をとることができます。ストーカー行為をした者は、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。禁止命令等に違反してストーカー行為をした場合は、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金です。(警視庁)
2025年の改正では、紛失防止タグを悪用して位置情報を取得する行為なども規制対象に加わっています。勤務先や学校との連携も強化されています。(警察庁)
相手が家の周りに来る。
職場で待ち伏せする。
何度も電話やメッセージを送ってくる。
無断でGPSやタグを使って居場所を調べる。
このような場合は、警察に相談します。
別居するときの注意点
DVがある場合、別居は「話し合いのため」ではなく、安全確保のために行うことがあります。
別居するときは、相手に行き先を告げる前に、相談機関へつながる方が安全です。子どもがいる場合は、学校、保育園、医療機関、親族への連絡方法も確認します。
持ち出すものは、生活と手続に必要なものを優先します。
本人確認書類
健康保険証
母子健康手帳
子どもの保険証や診察券
通帳、キャッシュカード
印鑑
年金手帳または基礎年金番号が分かるもの
給与明細、源泉徴収票
保険証券
住宅ローン資料
不動産資料
離婚届や戸籍関係書類
暴力や脅しの記録
スマートフォンと充電器
常用薬
子どもの学校用品
無理に大きな家財道具を持ち出すと、相手との衝突が起きることがあります。後で財産分与や動産の引渡しとして整理できるものは、安全確保後に考えます。
住民票と住所を知られたくない場合
住所を移した場合、原則として住民異動の届出が必要になります。
ただし、DVやストーカー被害がある場合は、住民票や戸籍附票から相手に住所を知られることが大きな危険になります。この場合は、住民基本台帳事務における支援措置を検討します。
支援措置は、DV、ストーカー、児童虐待などの被害者について、加害者が所在確認を目的として住民票の写しや戸籍附票の写しを取得することを制限する制度です。
転居届を出す前に、警察、配偶者暴力相談支援センター、市区町村の窓口に相談し、住所を守る手続を確認します。
子どもの転校がある場合も同じです。
転校先、住民票、児童手当、医療費助成、学校との連絡方法を個別に確認します。安全確保が必要な場合は、学校にも情報管理を依頼します。
共有財産の持ち出し
別居時に、夫婦の家から何を持ち出せるかは、後で揉めやすい問題です。
身の回り品、子どもの生活用品、通帳や保険証券などの資料は、必要性が高いものです。一方で、相手名義の高額品、家財道具一式、現金の大部分などを一方的に持ち出すと、後で財産分与や損害賠償の問題になることがあります。
安全のために持ち出す場合でも、できるだけリストを作ります。
何を持ち出したか
いつ持ち出したか
子どもの物か
自分の物か
夫婦共有の物か
後で返す予定があるか
安全を最優先にしながら、持ち出した物を説明できる形にしておくことが大切です。
アルコール依存症と暴力
配偶者の暴力の背景に、アルコール依存症や薬物、ギャンブルの問題がある場合もあります。
ただし、依存症があるから暴力が許されるわけではありません。
依存症は、本人の意思だけで改善することが難しい場合があります。厚生労働省は、依存症について、保健所、精神保健福祉センター、依存症相談拠点、自助グループ、回復支援施設などを相談先として案内しています。(厚生労働省)
家族だけで治そうとする必要はありません。
本人が治療や支援につながることは重要です。
しかし、被害者が暴力に耐えながら、本人の回復を待つ必要はありません。
暴力がある場合は、まず安全確保を優先します。
DV加害者プログラムについて
DV加害者向けの更生プログラムを実施している団体もあります。
ただし、加害者がプログラムに参加することと、被害者が安全になることは同じではありません。
加害者が「変わる」と言っても、実際に行動が変わるかどうかは別です。
被害者側は、次の点を分けて考える必要があります。
本人が自分で支援につながること
暴力が止まること
被害者と子どもの安全が守られること
生活費や住まいが確保されること
離婚条件が書面で決まること
加害者の反省だけで同居を再開するのは危険な場合があります。
戻るかどうかは、相談機関や弁護士に相談し、安全計画を立ててから判断します。
離婚条件は安全確保の後で整理する
DVがある場合、最初に考えるべきことは、離婚届ではありません。
安全な場所を確保すること。
警察や支援センターに相談すること。
子どもを守ること。
住所を知られないようにすること。
生活費と住まいを確保すること。
これが先です。
その後で、離婚条件を整理します。
親権・監護
養育費
親子交流
婚姻費用
財産分与
慰謝料
年金分割
住まい
住宅ローン
清算条項
DVがある場合、相手と直接交渉することは避けるべき場面が多くあります。
代理交渉、調停、保護命令、慰謝料請求が必要な場合は、弁護士に相談します。
離婚協議書や公正証書を作る場合でも、まず安全が確保されていることが前提です。
まとめ
配偶者からの暴力は、夫婦げんかではありません。
身体への暴力だけでなく、脅し、監視、生活費を渡さないこと、性的な強要、位置情報の無断取得も、DVとして問題になります。
危険があるときは、話し合いより先に逃げることを考えます。
緊急時は110番。
相談先が分からないときはDV相談ナビ「#8008」。
電話が難しいときはDV相談+。
保護命令が必要な場合は、地方裁判所への申立てを検討します。
別居するときは、住所を守るために住民基本台帳の支援措置も確認します。
DVがある離婚では、感情の整理よりも、安全、証拠、住まい、お金、子どもの生活を先に整える必要があります。
