配偶者から離婚を切り出されても、それだけで離婚が成立するわけではありません。
協議離婚は、夫婦双方が離婚に合意し、離婚届が受理されて成立します。どちらか一方が離婚したいと思っていても、もう一方が同意しなければ、協議離婚は成立しません。
話し合いでまとまらない場合は、家庭裁判所の調停を利用することがあります。それでもまとまらない場合には、裁判で離婚を求めることになります。
裁判で離婚が認められるには、民法770条に定められた離婚原因が必要です。現在の民法770条では、不貞行為、悪意の遺棄、3年以上の生死不明、その他婚姻を継続し難い重大な事由が、裁判上の離婚原因とされています。旧法にあった「強度の精神病」の規定は、2026年4月1日施行の改正で削除されています。(e-Gov 法令検索)
法律上の強さと夫婦関係の回復は別に考える
離婚したくない場合は、まず、相手に裁判で離婚を求めるだけの理由があるのかを確認します。
相手に明確な離婚原因がない場合、こちらが同意しなければ、直ちに裁判で離婚が認められるとは限りません。その意味では、法律上は急いで離婚届に署名する必要がない場合があります。
ただし、法律上すぐに離婚が認められないことと、夫婦関係が戻ることは別です。
「裁判では簡単に離婚できない」と相手に言っても、相手の気持ちが戻るとは限りません。むしろ、相手がますます距離を置くこともあります。
もとのサヤに収まりたいなら、法律で相手を押さえるより先に、相手がなぜ離婚を考えるところまで来たのかを整理する必要があります。
まず確認すること
離婚を切り出されたときは、相手を説得する前に、次の点を確認します。
相手が離婚を求める理由
相手が別居を考えているか
不貞、暴力、生活費不払いなどの問題があるか
子どもの生活に影響が出ているか
家計、住まい、仕事に不安があるか
夫婦で話し合える状態か
相手が弁護士や親族に相談しているか
自分が変えられる行動があるか
ここを見ずに、「離婚したくない」とだけ言っても、相手には届きにくくなります。
わが身を振り返るとは、全部自分が悪いと認めることではない
もとのサヤに収まりたい場合、自分の行動を振り返る必要があります。
ただし、それは「すべて自分が悪い」と認めることではありません。
相手の言い分が一方的なこともあります。誤解もあります。相手にも問題がある場合もあります。
それでも、夫婦関係を戻したいなら、まず自分の側で変えられる点を見ます。
たとえば、相手から次のような不満を言われている場合です。
家計のことを相談してこなかった
仕事や趣味を優先していた
家事や育児を任せきりにしていた
相手の話を聞いていなかった
言い方が強かった
感謝を伝えていなかった
実家や親族のことを軽く扱っていた
夫婦の将来について話してこなかった
このような点があるなら、反論する前に、事実としてどうだったかを確認します。
相手の言い方がきつくても、その奥に長年の不満があることがあります。
お金の使い方をめぐるすれ違い
夫婦の不満は、お金の使い方から出ることがあります。
たとえば、相手から「お金に細かすぎる」「自分の趣味には使うのに家族には使わない」「家計を見せてくれない」と言われる場合です。
本人としては、家族のために貯金していたのかもしれません。将来の教育費や住宅ローンを考えていたのかもしれません。
しかし、相手に説明していなければ、「自分だけ我慢させられている」と受け取られることがあります。
逆に、仕事の付き合い、趣味、飲み会、ゴルフ、旅行などについても、本人は必要な支出だと思っていても、相手には「家庭より外を優先している」と見える場合があります。
お金の使い方そのものより、説明されていないことが不信感につながることがあります。
話し合いでやってはいけないこと
離婚を回避したいときほど、話し合い方を間違えると関係は悪化します。
次の対応は避けた方がよいです。
相手の言い分をすぐ否定する
法律上離婚できないと強く言う
子どもを理由に相手を責める
親族を巻き込んで説得する
相手の弱点を並べる
過去の不満を言い返す
離婚届への署名だけを拒んで話し合いを避ける
相手が話している途中で結論を急ぐ
離婚を避けたいなら、まず相手の言い分を最後まで聞くことが必要です。
そのうえで、同意できる点と、同意できない点を分けます。
話し合いでは何を伝えるか
夫婦関係を戻したい場合は、抽象的な謝罪だけでは足りません。
「悪かった」「反省している」「もう一度やり直したい」だけでは、相手は安心できません。
相手が知りたいのは、これから何が変わるのかです。
伝えるべきことは、次のような内容です。
相手のどの不満を理解したか
自分のどの行動を変えるか
家事や育児をどう分担するか
家計をどう見える形にするか
親族との距離をどう取るか
仕事や趣味の時間をどう調整するか
夫婦で話す時間をどう作るか
別居を避けたいなら何をするか
言葉より、具体的な行動を示す方が重要です。
別居された場合
相手が家を出た場合でも、すぐに離婚が成立するわけではありません。
ただし、別居は夫婦関係がかなり悪くなっているサインです。
この場合は、相手を責めたり、無理に戻そうとしたりするより、まず生活費、子ども、連絡方法を整理します。
婚姻中は、夫婦には生活費を分担する義務があります。別居していても、収入や生活状況に応じて、婚姻費用の分担が問題になります。
子どもがいる場合は、令和8年4月1日施行の民法等改正により、父母は、親権や婚姻関係の有無にかかわらず、子どもの人格を尊重し、子どもを養育する責務を負うことが明確にされています。離婚を避けたい場合でも、子どもの生活費、学校、住まい、親子交流を放置してはいけません。(法務省)
DVや暴力がある場合は別に考える
暴力、脅し、監視、生活費を渡さないこと、性的な強要がある場合は、「もとのサヤに収まる」ことを急ぐべきではありません。
この場合は、夫婦関係の修復より、安全確保が先です。
暴力があるのに、「自分も悪かった」と考えすぎると、危険な関係に戻ってしまうことがあります。
相手が怖い。
家にいると安心できない。
子どもが親の顔色をうかがっている。
生活費を渡されず困っている。
スマートフォンや行動を監視されている。
このような場合は、夫婦だけで話し合わず、警察、配偶者暴力相談支援センター、弁護士、自治体の相談窓口に相談します。
離婚を拒む場合でも、条件整理はしておく
離婚したくない場合でも、離婚条件の整理はしておくべきです。
これは、離婚を認めるためではありません。
相手が調停を申し立てた場合や、別居が長くなった場合に備えるためです。
確認すべき内容は、次のとおりです。
婚姻費用
子どもの監護
養育費
親権
親子交流
住まい
財産分与
慰謝料の有無
年金分割
住宅ローン
清算条項
何も準備せずに「離婚しない」とだけ言い続けると、調停になったときに対応が遅れます。
離婚を避けたい場合でも、もし離婚になった場合の条件を把握しておくことは必要です。
まとめ
配偶者から離婚を切り出されても、すぐに離婚が成立するわけではありません。
協議離婚は、夫婦双方の合意と離婚届の受理が必要です。
裁判で離婚が認められるには、民法770条の離婚原因が必要です。
ただし、法律上離婚できない可能性があることと、夫婦関係が戻ることは別です。
もとのサヤに収まりたいなら、相手の言い分を否定する前に、自分の言動、家事や育児の分担、お金の使い方、話し合い方を振り返る必要があります。
一方で、暴力や支配がある場合は、関係修復より安全確保を優先します。
離婚したくない場合でも、婚姻費用、子どもの生活、財産分与、住まい、年金分割などの条件は整理しておきます。
