財産分与とは、離婚にあたり、夫婦が婚姻中に協力して築いた財産を分ける手続です。
民法768条は、協議上の離婚をした者の一方が、相手方に対して財産の分与を請求できると定めています。2026年4月1日施行の改正により、家庭裁判所に財産分与を求めることができる期間は、離婚後2年から5年に延長されています。ただし、2026年3月31日以前に離婚した夫婦については、従前どおり離婚後2年です。(法務省)
改正後の民法では、財産分与の判断にあたり、婚姻中に取得し、または維持した財産の額、各当事者の寄与の程度、婚姻期間、婚姻中の生活水準、協力と扶助の状況、年齢、心身の状況、職業、収入その他一切の事情を考慮するとされています。また、財産の取得または維持についての寄与の程度は、異なることが明らかでないときは、相等しいものとされています。(法務省)
財産分与で決めること
財産分与を公正証書に入れる場合は、まず、何を分けるのかを具体的に整理します。
預貯金
現金
不動産
自動車
保険の解約返戻金
株式・投資信託
退職金または退職金見込額
家財道具
住宅ローン
夫婦間の貸し借り
婚姻費用の未払い
財産分与は、金額だけを決めれば終わるものではありません。
誰が、誰に、何を、いつまでに、どの方法で渡すのかを公正証書に書く必要があります。
財産分与の対象になる財産
財産分与の対象になるのは、原則として、婚姻中に夫婦の協力によって取得し、または維持した財産です。
名義が夫だけになっていても、婚姻中に夫婦の協力で築いた財産であれば、財産分与の対象になります。
妻名義の預金であっても、実質的に夫婦で築いた財産であれば、財産分与の対象になることがあります。
不動産、自動車、保険、株式なども、名義だけで判断するのではなく、いつ、どのようなお金で取得したのかを見ます。
財産分与の対象になりにくい財産
次の財産は、原則として財産分与の対象になりにくい財産です。
婚姻前から一方が持っていた財産
婚姻中に相続で取得した財産
婚姻中に贈与で取得した財産
一方の親族から個人的に受け取った財産
ただし、相続財産や婚姻前の財産であっても、婚姻中に夫婦の協力によって維持や増加がされた場合は、その増加分や維持への寄与が問題になることがあります。
「相続でもらったから絶対に対象外」とは限りません。
公正証書では、対象にする財産と、対象にしない財産を分けて確認します。
金銭で分与する場合
財産分与では、金銭で支払う形がよく使われます。
一括払いにする場合は、金額、支払期限、振込先を明確にします。
記載例1 一括払い
甲は乙に対し、財産分与として金300万円を支払う。
甲は、前項の金員を、令和○年○月○日限り、乙の指定する預金口座へ振り込む方法により支払う。
振込手数料は、甲の負担とする。
分割払いにする場合
財産分与を分割払いにする場合は、総額、毎月の金額、支払日、支払期間を明確にします。
分割払いは途中で支払いが止まることがあります。
そのため、期限の利益喪失条項を入れるかどうかを確認します。
記載例2 分割払い
甲は乙に対し、財産分与として金360万円を支払う。
甲は、前項の金員を、令和○年○月から令和○年○月まで、毎月15日限り、1か月金10万円ずつ、乙の指定する預金口座へ振り込む方法により支払う。
振込手数料は、甲の負担とする。
記載例3 期限の利益喪失条項
甲が前条の分割金の支払いを2回以上怠り、その未払額が金20万円に達したときは、甲は当然に期限の利益を失う。
この場合、甲は乙に対し、財産分与の残額を直ちに一括して支払う。
自立資金として支払う場合
財産分与の中には、離婚後の生活を整えるための扶養的な意味を持つ支払いがあります。
この場合、「財産分与」と書くか、「自立資金」「解決金」と書くかで意味が変わります。
公正証書では、名目をあいまいにせず、支払義務の根拠が分かるように書きます。
記載例4 自立資金
甲は乙に対し、本件離婚に伴う乙の自立資金として、金250万円の支払義務があることを認める。
甲は、前項の金員を、令和○年○月○日限り、乙の指定する預金口座へ振り込む方法により支払う。
退職金を財産分与に含める場合
退職金は、婚姻中の勤務に対応する部分について、財産分与の対象になることがあります。
ただし、退職金がすでに支払われているのか、将来支払われる見込みなのかで書き方が変わります。
退職金を財産分与に入れる場合は、支払時期と金額の計算方法を明確にします。
記載例5 金額を固定する場合
甲は乙に対し、財産分与として金500万円を支払う。
甲は、前項の金員を、甲が勤務先である○○株式会社から退職金の支払いを受けた日から1か月以内、または令和○年○月○日のいずれか早い日までに、乙の指定する預金口座へ振り込む方法により支払う。
記載例6 退職金から計算する場合
甲は乙に対し、財産分与として、甲が勤務先である○○株式会社から支払いを受ける退職金のうち、婚姻期間に対応する部分から所得税その他法令上控除される金額を差し引いた残額の2分の1に相当する額を支払う。
甲は、前項の金員を、退職金の支払いを受けた日から1か月以内に、乙の指定する預金口座へ振り込む方法により支払う。
この書き方では、金額がまだ確定していない場合でも、計算方法を定めています。
ただし、実際に使う場合は、勤務先の退職金規程、支給見込額、税金、婚姻期間を確認する必要があります。
保険を財産分与に含める場合
生命保険、個人年金保険、養老保険などは、解約返戻金が財産分与の対象になることがあります。
保険をそのまま移すのか、解約返戻金相当額を支払うのかを分けて考えます。
保険契約者を変更する場合は、保険会社の手続が必要です。
記載例7 解約返戻金相当額を支払う場合
甲は乙に対し、財産分与として、甲名義の生命保険契約の令和○年○月○日時点における解約返戻金相当額の2分の1に相当する金員を支払う。
甲は、乙に対し、前項の金額を確認するため、保険会社が発行する解約返戻金額証明書その他必要な資料を提示する。
甲は、前項により確定した金員を、令和○年○月○日限り、乙の指定する預金口座へ振り込む方法により支払う。
預貯金を分ける場合
預貯金を分ける場合は、基準日を決めます。
離婚時点なのか、別居時点なのか、合意時点なのかを決めないと、金額が変わります。
記載例8 預貯金を分ける場合
甲及び乙は、令和○年○月○日時点における夫婦共有財産として、甲名義の○○銀行○○支店普通預金口座の残高金○万円及び乙名義の○○銀行○○支店普通預金口座の残高金○万円があることを確認する。
甲は乙に対し、財産分与として金○万円を、令和○年○月○日限り、乙の指定する預金口座へ振り込む方法により支払う。
不動産を財産分与する場合
不動産を財産分与する場合は、公正証書に書くだけでは名義は変わりません。
所有権移転登記が必要です。
公正証書では、どの不動産を誰に分与するのか、登記費用を誰が負担するのか、いつ登記手続を行うのかを定めます。
不動産登記は司法書士の業務です。
住宅ローン、譲渡所得税、不動産取得税、登録免許税、固定資産税の扱いも確認が必要です。税務は税理士へ確認します。
記載例9 不動産を妻へ分与する場合
甲は乙に対し、財産分与として、別紙物件目録記載の不動産を分与する。
甲は乙に対し、令和○年○月○日限り、前項の不動産について、本日付財産分与を原因とする所有権移転登記手続に協力する。
登記手続費用は、乙の負担とする。
記載例10 共有持分を分与する場合
甲は乙に対し、財産分与として、別紙物件目録記載の不動産に係る甲の共有持分全部を分与する。
甲は乙に対し、令和○年○月○日限り、本日付財産分与を原因とする甲の共有持分全部移転登記手続に協力する。
登記手続費用は、乙の負担とする。
代償金を支払う場合
一方が不動産を取得し、他方へ代償金を支払うことがあります。
この場合は、不動産の移転登記と代償金の支払いをどう連動させるかが重要です。
記載例11 不動産分与と代償金
甲は乙に対し、財産分与として、別紙物件目録記載の不動産を分与する。
乙は甲に対し、前項の不動産を取得する代償金として金200万円を支払う。
乙は、前項の金員を、令和○年○月○日限り、甲の指定する預金口座へ振り込む方法により支払う。
甲は乙に対し、前項の金員の支払いを受けるのと引き換えに、第1項の不動産について、本日付財産分与を原因とする所有権移転登記手続に協力する。
登記手続費用は、乙の負担とする。
不動産を売却して分ける場合
不動産を売却し、売却代金を分ける場合は、売却期限、控除する費用、分配割合を明確にします。
住宅ローンが残っている場合は、売却代金からローン残債、仲介手数料、登記費用、測量費などを控除した残額を分ける形になります。
記載例12 売却代金を分ける場合
甲及び乙は、別紙物件目録記載の不動産を共同して売却するよう協力する。
甲及び乙は、前項の不動産の売却代金から、住宅ローン残債、売却に必要な仲介手数料、登記費用、測量費その他売却に必要な費用を控除した残額を、各2分の1の割合で取得する。
甲及び乙は、不動産会社の選定、売却価格、売買契約の締結その他売却に必要な事項について、誠実に協議する。
住宅ローンがある場合
住宅ローンが残っている不動産は、特に注意が必要です。
公正証書で夫婦間の約束をしても、金融機関はその約束に当然には拘束されません。
債務者を変更する、連帯債務者を外す、連帯保証人を外すには、金融機関の承諾が必要です。
夫婦間で「妻が払う」と決めても、金融機関との関係では、ローン名義人や連帯保証人の責任は残ることがあります。
記載例13 ローン名義人が支払い続ける場合
甲は乙に対し、別紙物件目録記載の不動産に係る住宅ローンについて、甲の責任において、金融機関との契約に従い返済することを約束する。
甲は、前項の住宅ローンの支払いを怠り、乙の居住又は所有権に支障を生じさせないよう努める。
甲は、乙から求められた場合、住宅ローンの返済状況が分かる資料を提示する。
この条項は、夫婦間の約束です。
金融機関に対して、乙を当然に保護する効力があるわけではありません。
記載例14 連帯保証人から外す交渉をする場合
甲は乙に対し、別紙物件目録記載の不動産に係る住宅ローンについて、乙を連帯保証人から外し、甲の単独債務とすることができるよう、金融機関と協議する。
甲は、前項の協議の結果を、速やかに乙へ報告する。
甲は、金融機関が乙を連帯保証人から外すことを承諾しない場合であっても、住宅ローンを自己の責任で返済し、乙に負担を生じさせないよう努める。
金融機関が承諾しない限り、連帯保証人を外すことはできません。
そのため、「必ず外す」と書くより、「金融機関と協議する」と書く方が現実に合います。
記載例15 ローン完済後に移転登記する場合
甲は、乙が現在居住する別紙物件目録記載の不動産に係る住宅ローンについて、自己の責任で返済する。
甲は、前項の住宅ローンを完済したときは、完済日以降速やかに、乙に対し、財産分与として同不動産を分与し、財産分与を原因とする所有権移転登記手続に協力する。
登記手続費用は、乙の負担とする。
この書き方は、ローン完済後に名義変更する場合です。
ただし、完済までの間に再婚、転居、売却、滞納などの事情が生じる可能性があります。
必要に応じて、事情変更時の協議条項を入れます。
自動車を財産分与する場合
自動車は、登録名義の変更が必要です。
車検証を確認し、登録番号、車名、型式、車台番号で特定します。
ローンが残っている場合は、所有権留保が付いていることがあります。その場合は、信販会社や販売会社への確認が必要です。
記載例16 自動車を分与する場合
甲は乙に対し、財産分与として、次の自動車を分与する。
登録番号 長崎○○あ○○○○
車名 ○○
型式 ○○
車台番号 ○○
甲は乙に対し、令和○年○月○日限り、前項の自動車を引き渡し、所有権移転登録手続に協力する。
登録手続費用は、乙の負担とする。
株式・投資信託を財産分与する場合
株式や投資信託は、証券口座で管理されていることが多くあります。
上場株式は、証券口座間の振替で移すことがあります。
ただし、実際に移せるかどうかは、証券会社の手続や商品内容によります。
移せない場合は、評価額をもとに金銭で清算することもあります。
記載例17 証券口座へ振り替える場合
甲は乙に対し、財産分与として、甲名義の○○証券株式会社○○支店の口座で管理されている○○株式会社普通株式○株を分与する。
甲は、令和○年○月○日限り、前項の株式を乙名義の証券口座へ振り替えるために必要な手続に協力する。
振替手続に要する費用は、乙の負担とする。
記載例18 金銭で清算する場合
甲は乙に対し、財産分与として、甲名義の証券口座で管理されている○○投資信託の令和○年○月○日時点の評価額金○万円の2分の1に相当する金○万円を支払う。
甲は、前項の金員を、令和○年○月○日限り、乙の指定する預金口座へ振り込む方法により支払う。
家財道具を分ける場合
家財道具は、細かく書きすぎると長くなります。
ただし、高額な家具、家電、婚礼家具、パソコン、楽器、仕事道具などは、後で争いになりやすいことがあります。
必要なものだけ目録にします。
記載例19 家財道具
甲は乙に対し、財産分与として、別紙動産目録記載の動産を分与する。
甲は乙に対し、令和○年○月○日限り、前項の動産を乙に引き渡す。
搬出費用及び運搬費用は、乙の負担とする。
別紙動産目録の例
冷蔵庫 ○○製 型番○○
洗濯機 ○○製 型番○○
電子レンジ ○○製 型番○○
和箪笥 1棹
長男の学習机及び椅子
乙の私物一式
子どもの私物一式
当事者間で分かるものは簡潔に書いても構いません。
ただし、後で見ても分からない書き方は避けます。
婚姻費用の未払いは分けて書く
別居中の生活費の未払いは、財産分与ではなく、婚姻費用として整理します。
財産分与、慰謝料、婚姻費用、夫婦間の借入金は、それぞれ性質が違います。
同じ公正証書に入れる場合でも、項目を分けて書きます。
記載例20 未払い婚姻費用
甲は乙に対し、令和○年○月分から令和○年○月分までの未払い婚姻費用として、金○万円の支払義務があることを認める。
甲は、前項の金員を、令和○年○月○日限り、乙の指定する預金口座へ振り込む方法により支払う。
夫婦間の貸し借り
夫婦間で借入金、立替金、親族からの借入れがある場合は、財産分与とは別に整理します。
記載例21 夫婦間の借入金
甲は乙に対し、甲が婚姻中に乙から借り受けた金100万円について、返還義務があることを認める。
甲は、前項の金員を、令和○年○月○日限り、乙の指定する預金口座へ振り込む方法により支払う。
記載例22 立替金
甲は乙に対し、乙が甲のために立て替えた金50万円について、支払義務があることを認める。
甲は、前項の金員を、令和○年○月○日限り、乙の指定する預金口座へ振り込む方法により支払う。
第三者への債務がある場合
夫婦の一方が、親族や第三者から借入れをしている場合があります。
第三者が公正証書に参加しない限り、その第三者に対する支払いについて、公正証書で直接の支払義務を定めることは慎重に考える必要があります。
また、債務者を変更するには、債権者の承諾が必要になることがあります。
記載例23 第三者からの借入れを一方が負担する場合
甲及び乙は、甲が婚姻中に乙の父である鈴木三郎から借り受けた金○万円について、甲が返済するものと確認する。
甲は、前項の金員を、鈴木三郎との間で別途定める方法により返済する。
この条項は、夫婦間の確認です。
第三者である鈴木三郎に直接の請求権を与える形にする場合は、鈴木三郎本人の参加が必要になります。
財産分与条項で避けたい書き方
財産分与条項では、次の書き方は避けた方がよいです。
財産は半分にする
預金は適当に分ける
自宅は妻のものにする
住宅ローンは夫が何とかする
退職金が出たら相応に払う
保険は解約して分ける
株式は後で移す
車は妻が使う
これらの書き方では、金額、期限、手続、費用負担が分かりません。
公正証書では、数字、期限、対象財産、手続方法、費用負担を明確にします。
財産分与と清算条項
財産分与を決めたら、最後に清算条項との関係を確認します。
清算条項を入れると、公正証書に定めたもの以外の請求をしないという意味になります。
ただし、後で確認が必要なものがある場合は、清算条項から除外します。
記載例24 清算条項に入れる前の確認
甲及び乙は、本公正証書に定める財産分与、慰謝料、婚姻費用、養育費その他の条項のほか、互いに何らの債権債務がないことを確認する。
ただし、年金分割の手続、不動産登記手続、住宅ローンに関する金融機関との協議その他本公正証書において別途手続を予定した事項は、この限りではない。
まとめ
財産分与は、離婚にあたり、夫婦が婚姻中に協力して築いた財産を分ける手続です。
2026年4月1日施行の改正により、家庭裁判所へ財産分与を求めることができる期間は、離婚後5年に延長されています。
また、寄与の程度は、異なることが明らかでないときは相等しいものとされ、原則として2分の1ずつという考え方が明確になっています。
公正証書では、財産分与の対象、金額、支払期限、支払方法、登記手続、住宅ローン、費用負担を具体的に書きます。
不動産、住宅ローン、株式、保険、自動車、退職金は、手続や評価が複雑になりやすい部分です。
特に不動産登記は司法書士、税務は税理士、争いがある場合は弁護士へ確認する必要があります。
財産分与は、金額だけでなく、実際にどう履行するかまで決めておくことが大切です。
