離婚公正証書を作る前に必要なのは、公証役場へ行くことではありません。
先に、夫婦で決める内容を整理することです。
公正証書は、夫婦で決めた内容を公証人が公的な書面にするものです。協議離婚の場合、公正証書を作っただけでは離婚は成立しません。離婚届が市区町村役場で受理されて、はじめて協議離婚の効力が生じます。(日本公証人連合会)
公正証書にする前に整理すること
離婚公正証書では、主に次の内容を整理します。
離婚すること
親権者
監護者
養育費
親子交流
財産分与
慰謝料
婚姻費用
年金分割
住まい
住宅ローン
進学費用
医療費
住所や勤務先が変わった場合の連絡
清算条項
強制執行認諾文言
すべてを必ず入れるわけではありません。
夫婦で決める必要があるものを選び、金額、期間、支払方法、連絡方法を具体的に決めます。
子どもに関すること
子どもがいる場合は、親権者、監護者、養育費、親子交流を整理します。
2026年4月1日施行の民法等改正により、離婚後の親権者については、父母双方を親権者とすることも、父母の一方を親権者とすることもできるようになっています。父母が共同で親権を持つ場合でも、子どもが日常的にどちらと暮らすのか、監護者をどうするのか、重要な事項をどう決めるのかを確認する必要があります。(法務省)
養育費は、金額だけでは足りません。
月額
支払日
支払期間
振込先
振込手数料の負担
進学費用
高額な医療費
支払いが遅れた場合の扱い
住所や勤務先が変わった場合の連絡方法
これらを決めておくと、後で確認しやすくなります。
親子交流について
以前は「面接交渉」と呼ばれることが多くありました。
現在は、「親子交流」という表現を使う方が自然です。
親子交流については、子どもと離れて暮らす親が、どのように子どもと会い、連絡を取るのかを決めます。
月1回程度
第2土曜日の午前10時から午後5時まで
受け渡し場所
宿泊の有無
学校行事への参加
電話やオンラインでの交流
子どもの体調不良時の対応
予定変更の連絡方法
あまり細かくしすぎると、子どもの予定や体調に合わせにくくなります。
一方で、「適宜会う」とだけ書くと、後で実施しにくくなります。
基本の形と、変更が必要になったときの協議方法を分けて書くことが大切です。
大人に関すること
大人に関する内容では、慰謝料、財産分与、婚姻費用、年金分割、住まい、住宅ローンなどを整理します。
慰謝料を支払う場合は、金額、支払期限、一括払いか分割払いか、振込先を決めます。
財産分与では、預貯金、不動産、保険、車、退職金見込み、住宅ローンなどを確認します。
別居中の生活費である婚姻費用に未払いがある場合は、その扱いも決めます。
不動産を財産分与する場合は、不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、住宅ローン資料などを確認します。ただし、不動産の名義変更登記は司法書士の業務です。公正証書を作るだけで登記が完了するわけではありません。
年金分割について
年金分割をする場合は、公正証書や離婚協議書に書くだけでは手続は完了しません。
年金分割のための情報通知書を確認し、合意分割の場合は按分割合を決めます。
そのうえで、年金事務所で年金分割の請求手続を行う必要があります。
公正証書には、年金分割の合意内容を入れることができます。
ただし、実際の年金分割は、年金事務所で手続をして初めて進みます。
強制執行認諾文言について
養育費、慰謝料、財産分与の分割払いなど、お金の支払いを公正証書にする場合は、強制執行認諾文言を入れるか確認します。
強制執行認諾文言とは、支払いをする側が、支払いを怠った場合には強制執行を受けてもよいと認める文言です。
この文言があると、支払いが滞ったときに、改めて訴訟をしなくても強制執行へ進める場合があります。
ただし、親子交流、謝罪、連絡方法などは、お金の支払いとは性質が違います。
公正証書に書いた内容のすべてが、同じように強制執行できるわけではありません。
公正証書にする前の確認表
| 項目 | 確認すること |
|---|---|
| 離婚 | 協議離婚することに合意しているか |
| 親権者 | 父母双方か、父母の一方か |
| 監護者 | 子どもと日常的に暮らす親を誰にするか |
| 養育費 | 月額、支払日、支払期間、振込先 |
| 進学費用 | 入学金、授業料、大学費用をどうするか |
| 医療費 | 高額な医療費をどう分担するか |
| 親子交流 | 頻度、時間、場所、受け渡し、連絡方法 |
| 慰謝料 | 金額、支払方法、支払期限 |
| 財産分与 | 預貯金、不動産、保険、車、退職金見込み |
| 婚姻費用 | 未払い分があるか |
| 年金分割 | 情報通知書、按分割合、年金事務所での手続 |
| 住まい | 誰が住むか、退去時期、賃貸契約の扱い |
| 住宅ローン | 債務者、連帯保証人、金融機関への確認 |
| 清算条項 | 何を終わらせ、何を残すか |
| 強制執行 | 強制執行認諾文言を入れるか |
覚書メモを作る意味
公証役場へ相談する前に、夫婦で決めた内容を覚書メモとして書き出しておくと、話が進めやすくなります。
ただし、覚書メモはそのまま公正証書になるものではありません。
公証人が内容を確認し、公正証書として使える形に整えます。
覚書メモでは、難しい法律用語を無理に使う必要はありません。
誰が、誰に、いくらを、いつまでに、どの方法で支払うのか。
子どもが、どちらと暮らし、もう一方の親とどのように交流するのか。
これが分かる形で書いておくことが大切です。
覚書メモの見本
以下は、内容を整理するための見本です。
実際の公正証書では、家庭ごとの事情に合わせて内容を調整します。
離婚に関する覚書メモ
夫 山田太郎
妻 山田花子
長男 山田一郎 平成○年○月○日生
長女 山田美香 平成○年○月○日生
離婚について
夫と妻は、協議離婚することに合意する。
夫と妻は、本覚書の内容をもとに、強制執行認諾文言付き公正証書を作成する。
親権者と監護者
長男及び長女の親権者は、父母双方とする。
長男及び長女の監護者は、妻とする。
長男及び長女は、離婚後、妻と同居する。
子どもの進学、転校、入院その他重要な事項については、父母で事前に協議する。
日常の監護教育に関する事項は、監護者である妻が行う。
養育費
夫は妻に対し、長男及び長女の養育費として、子ども1人につき月額3万円を支払う。
支払日は、毎月末日限りとする。
支払先は、妻名義の次の口座とする。
○○銀行 ○○支店
普通預金 口座番号○○○○○○○
口座名義 山田花子
振込手数料は、夫の負担とする。
養育費の支払期間は、各子が満20歳に達する月までとする。
進学、病気、事故その他特別な事情が生じた場合は、父母で別途協議する。
親子交流
夫は、長男及び長女と、月1回程度、親子交流を行う。
日時、場所、受け渡し方法は、子どもの年齢、学校行事、体調を考慮し、父母で事前に協議して決める。
子どもの体調不良、学校行事その他やむを得ない事情により予定日に実施できない場合は、父母で代替日を協議する。
父母は、親子交流について、子どもの生活と気持ちを優先して対応する。
慰謝料
夫は妻に対し、慰謝料として300万円を支払う。
支払方法は、毎月2万円の分割払いとする。
支払日は、毎月末日限りとする。
支払先は、妻名義の指定口座とする。
振込手数料は、夫の負担とする。
支払いを怠った場合の扱いは、公正証書作成時に確認する。
婚姻費用
夫は妻に対し、別居中の未払い婚姻費用として24万円を支払う。
支払期限は、令和○年○月○日とする。
支払先は、妻名義の指定口座とする。
財産分与
夫婦の預貯金500万円は、夫250万円、妻250万円に分ける。
夫は妻に対し、財産分与として250万円を支払う。
支払期限は、令和○年○月○日とする。
住まい
夫は、現在妻が居住しているマンションについて、離婚後の使用方法を妻と協議する。
マンションの名義変更、住宅ローン、管理費、固定資産税その他必要な事項については、金融機関及び司法書士へ確認したうえで、別途手続を行う。
年金分割
夫と妻は、婚姻期間中の厚生年金記録について、合意分割を行う。
按分割合は、0.5とする。
夫と妻は、公正証書作成後、年金事務所で必要な手続を行う。
通知義務
夫及び妻は、住所、電話番号、勤務先、振込口座に変更があった場合、速やかに相手へ通知する。
通知は、書面、メールその他記録に残る方法で行う。
清算条項
夫と妻は、本公正証書に定めるもののほか、互いに何らの債権債務がないことを確認する。
ただし、子どもの進学費用、高額な医療費、年金分割の手続、不動産登記その他本覚書で別途協議または別途手続としたものは、この限りではない。
まとめ
離婚公正証書を作る前には、夫婦で決める内容を整理する必要があります。
特に、子ども、お金、住まい、年金分割、清算条項、強制執行認諾文言は、後で揉めやすい部分です。
2026年4月1日以降は、離婚後の親権について、父母双方を親権者とすることも、父母の一方を親権者とすることもできます。
そのため、子どもがいる場合は、親権者だけでなく、監護者、日常の判断、重要事項の協議方法、親子交流まで整理しておく必要があります。
公正証書は、夫婦の約束ごとを公的な書面にするものです。
公正証書を作る前に、何を決め、何を残し、何を別手続にするのかを確認しておくことが大切です。
