親が一人で銀行に行きにくくなった。病院代や施設費の支払いを、近くにいる家族が手伝っている。通帳を預かる話も出てきた。
この時に出てくるのが、財産管理等委任契約と任意後見契約です。
名前だけを見ると、どちらも親のお金を扱う契約に見えます。
しかし、使う場面は同じではありません。
財産管理等委任契約は、親が判断できる今の手伝いに使います。任意後見契約は、将来、親の判断能力が下がった時に備えます。
大切なのは、契約名を先に選ぶことではありません。
親のお金の流れ、親の判断状態、家族の役割を見たうえで、どの書面が必要かを考えることです。
契約名だけでは選べない
親のお金を家族が手伝う場面は、いくつかあります。
親が銀行へ行きにくくなった。施設の請求書が届くようになった。病院代や薬代を、近くにいる家族が払うようになった。通帳を誰が預かるか、家族の中で話が出てきた。
このような時に、財産管理等委任契約や任意後見契約を考えます。
ただし、契約名だけで選ぶと、家族の状況に合わないことがあります。
今すぐ支払いを手伝う必要がある家庭と、将来の認知症に備える家庭では、必要な書面が違うからです。
介護している家族と、介護していない兄弟姉妹でも、見えているものが違います。
介護している家族は、毎月の支払いに追われています。介護していない兄弟姉妹は、親のお金がどう動いているか見えていません。
だから、必要なのは制度名の比較だけではありません。
親のお金の流れを見て、介護している側と、介護していない側の両方が確認できる形にすることです。
まず確認するのは親のお金の流れ
契約書を考える前に、まず親のお金の流れを確認します。
親の預金がいくらあるか。年金が毎月いくら入るか。病院代や介護費がいくら出ているか。施設で暮らす場合、毎月いくらかかるか。家族が立て替えているお金があるか。
確認する項目は、次のとおりです。
・親の預貯金
・年金の入金額
・毎月の生活費
・病院代、薬代、介護費
・施設費の見込み
・家族が立て替えている金額
・通帳を預かっている人
・親の判断状態
ここを見ないまま契約書を選ぶと、必要な書面を間違えることがあります。
財産管理等委任契約だけで足りる家庭もあります。任意後見契約まで考える家庭もあります。遺言書も一緒に考えた方がよい家庭もあります。
順番は、契約名が先ではありません。
親のお金の流れを見ます。
親の判断状態を見ます。
家族がどこまで手伝うのかを見ます。
そのうえで、必要な書面を考えます。
財産管理等委任契約は、今の手伝いに使う
親がまだ判断できる。けれども、一人で銀行へ行くのが難しくなっている。施設費や病院代の支払いを、家族が手伝う必要がある。
この場面で考えるのが、財産管理等委任契約です。
財産管理等委任契約は、親が判断できるうちに、親本人の意思で家族などに財産管理や手続きを頼む契約です。
親が分かっている状態で、「この人に、この範囲を頼む」と決めます。
この契約で考えるのは、今の支払いです。
・病院代を誰が払うか
・施設費を誰が確認するか
・通帳を誰が預かるか
・現金を引き出した時にどう記録するか
・親のお金から何を払うか
・家族が立て替えた時にどう精算するか
介護している家族から見ると、財産管理等委任契約は、親のお金を動かしたいのに動かしにくい状態を整える書面です。
介護していない兄弟姉妹から見ると、親のお金を誰がどの範囲で動かしているのかを、後から確認しやすくする書面でもあります。
ただし、契約書を作れば、どの銀行や施設でも必ず同じように使えるという意味ではありません。
銀行や施設には、それぞれの確認方法があります。実際に使う場面では、提出先の扱いも確認する必要があります。
任意後見契約は、将来に備える
親が今は判断できる。けれども、数年後に認知症が進んだ時、誰が手続きをするのか不安がある。
この場面で考えるのが、任意後見契約です。
任意後見契約は、将来、親の判断能力が下がった時に備える契約です。
親が判断できるうちに、将来任せる人と内容を公正証書で決めておきます。
任意後見契約は、作った日からすぐに動く契約ではありません。将来、親の判断能力が不十分になり、家庭裁判所で任意後見監督人が選ばれてから動き始めます。
この契約で考えるのは、将来の支え方です。
・認知症が進んだ時に誰が手続きをするか
・親のお金を誰が管理するか
・施設や病院との手続きを誰が行うか
・親の生活に必要なお金をどう払うか
・家族の中で誰が前に立つか
介護している家族から見ると、任意後見契約は、将来の手続き不安を減らすための書面です。
介護していない兄弟姉妹から見ると、誰がどの範囲で親のお金を管理するのかを、確認しやすくする書面でもあります。
任意後見契約は、家族の誰か一人を有利にするための書面ではありません。親の意思に基づいて、将来の手続きとお金の扱いを決めておくための書面です。
今の手伝いと、将来の備えは別の話
財産管理等委任契約と任意後見契約は、似ています。
ただし、役割は違います。
今すぐ病院代や施設費の支払いを手伝う必要があるなら、財産管理等委任契約を考える場面です。
将来、認知症が進んだ時の手続きが不安なら、任意後見契約を考える場面です。
たとえば、親はまだ話せるけれど、銀行や役所へ一人で行くのは難しい。この場合は、今の支払いを家族が手伝う形が必要になります。
一方で、認知症が進んだ時、施設契約や財産管理を誰が担うのかも不安です。この場合は、将来の備えも考える必要があります。
どちらか一方だけで足りる家庭もあります。両方を考えた方がよい家庭もあります。
ただし、最初から本数を決める必要はありません。必要な本数は、親のお金の流れ、介護費、施設入居、認知症、相続までを見たうえで考えます。
契約書だけでは足りない
契約書を考える時は、親のお金の記録も一緒に残します。
契約書だけを作っても、親のお金の流れが見えなければ、兄弟姉妹に説明しにくいままです。
通帳の残高だけでは、何に使ったのか分からないことがあります。
最低限、次の記録を残します。
・通帳の入出金
・年金の入金額
・病院代、薬代、介護費
・施設費の請求書
・親のお金から払った支出
・家族が立て替えた支出
・親のお金から精算した金額
・兄弟姉妹へ説明した内容
介護している家族は、親のために動いています。それでも、記録がなければ、介護していない兄弟姉妹には見えません。
介護していない兄弟姉妹は、親のお金の使い道が分からないまま相続を迎えることに不安を感じます。
契約書と記録は、別々の話ではありません。親のお金を動かす人、支払いの内容、将来の手続き、相続時の説明を、続けて見える形にするために必要です。
すでに対立している時は別の対応になる
ここまでの話は、「まだ家族の中で確認できる段階」の方に向けたものです。
すでに兄弟姉妹との間で強い対立がある場合は、別の対応になります。
たとえば、お金の使い道について返還を求められている場合。相手が弁護士に相談している場合。
この段階に入っている時は、家族で書面を考える場面を超えています。争いになっている事案は、弁護士に相談する場面です。
まとめ
財産管理等委任契約と任意後見契約は、どちらも親のお金や手続きに関わる契約です。
ただし、使う場面は違います。
財産管理等委任契約は、親が判断できる今の手伝いに使います。
任意後見契約は、将来、親の判断能力が下がった時に備えます。
最初から契約名で選ばない方が安全です。
まず、親のお金の流れを見ます。親の判断状態を見ます。家族がどこまで手伝うのかを見ます。
そのうえで、今の支払いを手伝う契約が必要なのか、将来に備える契約が必要なのかを考えます。
契約書だけを作っても、親のお金の流れが見えなければ、家族に説明しにくいままです。通帳、請求書、領収書、立て替え分の記録も一緒に残しておくことが大切です。

