親が施設に入るかどうか。
この話になると、家族の中で空気が重くなることがあります。
家で見ている人は、もう限界に近いことがあります。夜中の見守り、病院への付き添い、薬の管理、食事の準備が続きます。
一方で、介護していない兄弟姉妹は、施設で暮らす場合に毎月いくらかかるのかが分かりません。「本当に施設が必要なのか」「親のお金は足りるのか」と感じることもあります。
施設入居は、気持ちだけでは決めにくい話です。親のお金がいくらあり、毎月いくら使い、何年くらいもつのかを見ないと、家族で話を進めにくくなります。
施設入居は、親を手放す話ではありません。親の生活をどう支えるか、家族がどこまで続けられるかを考える話です。
施設入居の話が進みにくい理由
施設入居の話が進みにくい理由は、施設の種類が分からないからだけではありません。
一番大きいのは、毎月のお金の見通しが見えていないことです。
入居時にいくら必要か。毎月いくら払うのか。年金で足りるのか。預金をどれくらい取り崩すのか。医療費や介護用品代は別にかかるのか。実家の維持費は残るのか。
この数字が出ていないまま話すと、介護している側と、介護していない側で見えているものが変わります。
介護している側は、毎日の負担を見ています。自分が限界に近いことを分かってほしいと思っています。通帳を預かっている場合は、親のお金を自分だけが触っているように見える不安もあります。
介護していない側は、親のお金の減り方を気にします。施設費が本当に必要なのか。親の預金がどれくらい残るのか。相続の時にどうなるのか。そこが気になります。
どちらも間違っているわけではありません。ただ、見ている場所が違います。
最初に見るのは施設名ではなく月々払える金額
施設入居を考え始めたら、最初に施設名を比べるより先に、月々いくらまでなら払えるかを確認します。
確認する順番は、次のとおりです。
・親の年金収入
・親の預金残高
・毎月の施設費
・医療費、薬代、介護用品代
・実家の固定資産税、火災保険、光熱費
・親のために家族が立て替えているお金
・今後必要になりそうな一時費用
ここで見るのは、「今月払えるか」だけではありません。
見るべきなのは、親のお金が何年もつかです。
年金だけで施設費を払えない場合は、預金を毎月取り崩します。毎月5万円を取り崩す家と、毎月15万円を取り崩す家では、同じ預金額でももつ年数が変わります。
施設で暮らすことになっても、医療費や薬代がなくなるわけではありません。実家をすぐに売れない場合は、実家の維持費も残ります。
また、親の状態が変わると費用も変わります。介護度が変わる。医療費が増える。別の施設へ移る。認知症が進む。実家をどうするか決める。こうした変化も見ておく必要があります。
施設費は毎月の総額で見る
施設の資料を見る時は、月額利用料だけを見ない方がよいです。
施設のパンフレットに書かれている金額と、実際に毎月かかる金額が違うことがあります。
家賃、管理費、食費、介護サービス費、医療費、薬代、日用品代、理美容代、通院付き添い費用など、別にかかる費用があるからです。
施設に確認する時は、次のように聞くと整理しやすくなります。
・毎月必ずかかる費用はいくらか
・食費は含まれているか
・介護サービス費は別か
・医療費や薬代は別か
・おむつ代や日用品代は別か
・入居時に必要な一時金はあるか
・退去時に精算される費用はあるか
・追加費用が出やすい場面はどこか
施設入居を考える時は、「月いくら」と一言でまとめない方がよいです。
親の年金で払う部分。預金から取り崩す部分。家族が立て替える可能性がある部分。ここを分けて見ます。
ここを分けると、兄弟姉妹にも説明しやすくなります。「高い」「安い」の話ではなく、「年金でここまで払える」「預金から毎月これだけ出る」「この条件なら何年くらいもつ」という話に変わります。
自宅で見る場合のお金も比べる
施設入居を考える時は、施設費だけを見ない方がよいです。自宅で見続ける場合のお金も確認します。
自宅で見る場合も、介護サービス費、医療費、薬代、介護用品代、交通費、食事の準備、住宅改修、見守りの負担があります。
家族が仕事を休んだり、通院に付き添ったりする負担もあります。
介護している人がすでに限界に近い場合、「自宅ならお金がかからない」とは言えません。家族の時間、体力、仕事、生活に大きな負担が出ていることがあります。
介護していない兄弟姉妹には、その負担が見えにくいことがあります。だからこそ、自宅で見る場合のお金と、施設で暮らす場合のお金を同じ表で比べることが大切です。
比べる時は、次のように分けます。
・自宅で見る場合の毎月の支出
・施設で暮らす場合の毎月の支出
・それぞれで親の預金が何年もつか
・家族の立替えが必要になるか
・介護している人の負担が続けられるか
残しておく記録
施設入居の判断では、通帳だけを見ても足りません。
通帳には、引き落としや出金の結果は残ります。ただし、そのお金を何に使ったのかまでは分からないことがあります。
最低限、次の記録を残しておくと、後で説明しやすくなります。
・施設の見積書
・施設の重要事項説明書
・毎月の請求書
・医療費の領収書
・薬代の領収書
・介護用品の領収書
・家族が立て替えた費用のメモ
・親の通帳の入出金メモ
・兄弟姉妹に説明した日付と内容
細かすぎる記録を毎日作る必要はありません。ただし、まとまった支出が出た時は、何のための支払いかを残しておいた方がよいです。
特に、施設の一時金、入院費、実家の修繕費、家族の立替金は、後で説明が必要になりやすい支出です。
大事なのは、親のお金を使わないことではありません。親のために使ったお金を、家族に説明できる形にしておくことです。
介護している側と介護していない側の見え方をそろえる
施設入居の話では、介護している側と、介護していない側の見え方が違います。
介護している側は、日々の負担を見ています。夜中の対応、病院への付き添い、薬の確認、食事の準備、施設探し、ケアマネジャーとの連絡。お金だけではない負担があります。
介護していない側は、毎日の場面を見ていません。だから、施設費の金額、親の預金残高、相続への影響に目が向きやすくなります。
この違いを、言葉だけで埋めるのは難しいです。「大変だから分かってほしい」と言っても、相手には毎日の場面が見えません。「お金が心配だ」と言われると、介護している側は責められたように感じます。
必要なのは、同じ資料を見て話すことです。
親のお金がいくらあり、毎月いくら入り、毎月いくら出ていくか。施設で暮らす場合、何年くらいもつか。家族の立替えが出るか。これを同じ資料で見ます。
同じ資料があると、話は「気持ち」だけでなく「数字」に移ります。数字があれば、施設入居を家族で考えやすくなります。
相続の時に説明できる形にしておく
施設費や医療費を、誰がどの口座から、いつ、いくら払ったか。家族が立て替えた分はあるか。
これが残っていないと、相続の時に説明できなくなることがあります。
施設費にいくら使ったか。医療費にいくら使ったか。誰が立て替えたか。親のお金が何年くらいもつ見込みだったか。
これが残っていれば、相続の時に感情だけで説明しなくて済みます。
ここで必要なのは、誰かを疑うことではありません。お金の流れを残しておくことです。
まとめ
親が施設に入るかどうかは、気持ちだけでは決めにくい話です。
最初に見るのは、施設名ではありません。親のお金で、毎月いくらまで払えるかです。
施設費は、パンフレットの月額利用料だけで見ない方がよいです。食費、医療費、薬代、日用品代、追加費用まで含めて見ます。
自宅で見続ける場合のお金と負担も比べます。施設で暮らす場合のお金も確認します。
施設費、医療費、立替金を家族に説明できる形にしておくと、施設入居の話も、その先の相続の話も、数字で進められるようになります。

