親の入院費を払う必要がある。施設の請求書が届いている。薬代や介護用品の支払いもある。
そこで、親の通帳と印鑑を持って銀行へ行ったら、窓口で手続きできないことがあります。
「ご本人の確認が必要です」
「ご本人の意思を確認できないと手続きできません」
そう言われると、困ります。支払いは待ってくれません。親は病院や施設にいて、銀行へ行けないこともあります。
自分が悪いことをしているわけではありません。それなのに、親のお金を動かそうとした瞬間に手続きできないと言われると、急に疑われたような気持ちになります。
ただし、銀行で手続きできなかったこと自体は、珍しいことではありません。
親のお金は、親本人のものです。通帳を持っている人のお金ではありません。
大切なのは、銀行を責めることではありません。親のお金を、誰が、何のために、どの記録で動かすのか。そこを確認できる形にすることです。
なぜ銀行で手続きできないことがあるのか
銀行で手続きできない理由は、主に2つあります。
1つ目は、親本人の意思確認が必要だからです。親の預金は、親本人の財産です。子どもが通帳を持っていても、銀行がそのまま払い出せるとは限りません。
親が入院している。親が施設に入っている。親が電話で話しにくい。親の判断がはっきりしない。このような事情があると、銀行は慎重になります。
全国銀行協会の資料でも、預金の払出しは、原則として本人の意思確認が必要とされています。ただし、突然の病気や事故で本人が意思を示せず、医療費や介護費など本人のための支払いが必要な場面では、銀行が個別の事情を見て払出しに応じることも想定されています。
つまり、成年後見制度を使わなければ引き出せない、という話ではありません。一方で、すぐに引き出せるとも限りません。銀行ごとに扱いは違います。親の状態、支払いの目的、必要な資料、金額によって対応は変わります。
2つ目は、後で家族間の問題になるおそれがあるからです。
介護している側は、親のために支払っています。入院費を払う。施設費を払う。薬代を払う。日用品を買う。その場にいる人には、支払いの理由が分かっています。
一方で、介護していない兄弟姉妹には、その場面が見えません。通帳の残高が減っている。現金が引き出されている。領収書や説明がない。そうなると、後で「何に使ったのか」と聞かれることがあります。
悪意がなくても、記録がなければ疑われます。
まず銀行に確認すること
銀行で手続きできなかった時は、まず取引銀行に確認します。銀行ごとに扱いは違います。同じ銀行でも、親の状態、金額、支払いの目的によって対応が変わることがあります。
確認することは、次のとおりです。
‧親本人の来店が必要か
‧電話や書面で意思確認できるか
‧入院中や施設入所中の場合の手続きがあるか
‧成年後見制度を使わない個別対応が可能か
‧支払い先の請求書が必要か
‧介護費、入院費、施設費として扱えるか
‧代理人の届出や手続きがあるか
‧今後も同じ支払いが続く場合にどうするか
「これを持って行けば、その場で引き出せる」とは限りません。
先に銀行へ確認します。そのうえで、支払いの目的が分かる資料をそろえます。
施設の請求書、病院の請求書、薬局の領収書、介護用品の明細などを手元に置きます。親の生活に必要な支払いだと分かる資料をそろえると、銀行にも家族にも説明しやすくなります。
銀行によっては、親族の口座へ現金を移すのではなく、病院や施設へ直接振り込む形を求められることがあります。これは、払い出したお金が親本人のために使われることを確認しやすくするためです。
親のお金を動かす前に確認すること
銀行で手続きできなかった時は、その支払いだけを見るのではなく、親のお金全体を見直します。
今回の支払いだけを何とかしても、来月も同じ問題が出ることがあります。施設費や医療費は、一度きりで終わらないことが多いからです。
まず確認するのは、親のお金が今どうなっているかです。
‧親の預貯金
‧年金の入金額
‧毎月の生活費
‧病院代、薬代、介護用品代
‧施設費、食費、日用品代
‧家族が立て替えている金額
‧今後増えそうな支払い
‧親本人の判断がはっきりしているか
ここまで見ると、銀行で手続きできなかった問題は、単なる窓口の問題ではないことが分かります。
親のお金を、これから誰が、どの範囲で、どの記録を残しながら動かすのか。その話を先に決める必要があります。
親の判断がはっきりしているうちなら、確認できることがあります。
親本人の希望を聞けます。通帳を誰が預かるかを決められます。支払いの方法を家族で確認できます。必要な場合は、書面に残すことも考えられます。
記録に残すこと
親のお金を動かす時は、記録を残します。
目的は、細かい家計簿を作ることではありません。後で家族に説明できる形にすることです。
最低限、次の項目を分けて残します。
‧親の財産
‧毎月の収入と支出
‧銀行で手続きできなかった内容
‧病院や施設からの請求書
‧介護費の立て替え
‧今後の支払い予定
‧兄弟姉妹へ説明した内容
通帳の数字だけでは足りません。
通帳に残るのは、出金額です。何に使ったかまでは分からないことがあります。
記録は、介護している人を責めるものではありません。介護している人を守るためのものでもあります。
介護していない兄弟姉妹にも不安がある
銀行で手続きできなかった時、介護している人だけが困っているように見えます。実際には、介護していない兄弟姉妹にも不安があります。
親のお金がどう使われているか分からない。通帳の残高が減っている理由が分からない。介護している人に聞きたいが、疑っているように受け取られそうで聞きにくい。こうした不安があります。
一方で、介護している人は、日々の支払いを抱えています。病院、施設、薬局、介護用品、交通費。すぐ払わないといけないものが続きます。
その中で、兄弟姉妹からお金のことを聞かれると、責められたように感じることがあります。
このすれ違いを避けるには、言い方だけを工夫しても足りません。必要なのは、同じ数字を見ることです。
親のお金がいくらあり、毎月いくら出ていて、何年くらいもつのか。そこを家族で見える形にします。
まとめ
銀行で手続きできなかった時は、まず銀行に確認します。
親本人の意思確認が必要か。入院中や施設入所中でも対応できる方法があるか。病院や施設への直接振込ができるか。必要な資料は何か。そこを確認します。
そのうえで、親のお金全体を見ます。親の預金、年金、毎月の支出、施設費、医療費、立て替え分を確認します。
親のお金を動かす時は、記録を残します。
親のために動いている人が、後で疑われないようにするためです。介護していない兄弟姉妹も、同じ数字を見て確認できるようにするためです。
出典
・一般社団法人 全国銀行協会「不測の事態における預金の払出しに関する考え方」

