親から、「そろそろ遺言書を書いた方がよいのかな」と言われた。
病院の付き添いもしている。通帳や保険証券の場所も、少しずつ確認している。
ただ、すぐに遺言書の内容を決めてよいのか迷うことがあります。
親の預金がどれくらいあるのか。施設で暮らすことになったら、毎月いくら必要になるのか。今の財産が、相続の時までどれくらい残るのか。
遺言書は、亡くなった後の財産の分け方を決める書面です。
ただし、亡くなる前に親のお金がどう動くかを見ないまま作ると、家族の実情に合わない内容になることがあります。
遺言書を書く前に確認することは、財産の分け方だけではありません。
親のお金が今どうなっているか。介護費や施設費でいくら使う見込みか。親本人が何を望んでいるか。
ここを先に整理します。
まず確認するのは親のお金の全体
遺言書を考える前に、親のお金の全体を見ます。
親の預金がいくらあるか。年金が毎月いくら入るか。毎月いくら出ているか。保険や不動産があるか。借入れや未払いがあるか。
ここが分からないまま遺言書を書いても、現実と合わない内容になることがあります。
確認する項目は、次のとおりです。
・親の預貯金
・年金の入金額
・毎月の生活費
・病院代、薬代、介護費
・施設費の見込み
・不動産
・保険
・株式、投資信託など
・借入れや未払い
ここまで見ると、親のお金が何年もつかを考えやすくなります。
介護費や施設費で預金が大きく減る見込みなら、遺言書に書く内容も変わることがあります。
先に財産の分け方を決めるのではありません。まず、親のお金がこれからどう動くかを見ます。
介護費と施設費で財産は変わる
遺言書を書く時点の財産が、そのまま相続まで残るとは限りません。
親が自宅で生活を続ける場合、医療費、薬代、介護サービス費、介護用品代がかかります。
施設で暮らす場合は、施設費、食費、日用品代、医療費などが続きます。
実家を残す場合は、固定資産税や維持費もかかります。
親の預金を介護費や施設費に使えば、将来残るお金は減ります。実家を売るのか、残すのかによっても、将来の財産は変わります。
施設で暮らす期間が長くなれば、預金の減り方も変わります。
遺言書には、亡くなった後の分け方を書けます。
ただし、亡くなる前にどれくらいお金を使うかまでは、遺言書だけでは見えません。
介護費と施設費の見通しを出してから遺言書を考えると、家族の実情に合った内容に近づきます。
親本人の希望を確認する
遺言書は、親本人が作る書面です。
家族が代わりに内容を決めるものではありません。
親が誰に何を残したいのか。実家をどうしたいのか。預金をどう分けたいのか。介護している家族への配慮を考えているのか。
親本人が話せるうちに確認します。
ただし、親の希望だけを聞いても足りないことがあります。
親が「長男に実家を残したい」と考えていても、実家の維持費や管理を誰が担うのかを見ておく必要があります。
親が「預金は均等に分けたい」と考えていても、介護費や施設費で預金が減ることがあります。
親の希望、財産の全体、今後の支出を並べて見ると、遺言書に書くべき内容が見えやすくなります。
介護している家族と、介護していない兄弟姉妹で見え方が違う
遺言書の話では、介護している家族と、介護していない兄弟姉妹で見え方が違います。
介護している家族は、毎日の支払いを見ています。病院代、薬代、介護用品代、施設費、通帳の管理、役所や施設との連絡。
その場にいる家族には、なぜその支払いが必要か分かっています。
介護していない兄弟姉妹は、その場面を見ていません。
通帳の残高が減っている。親のお金がどこに使われているか分からない。遺言書に想定していなかった内容が書かれている。
そうなると、不安が強くなることがあります。
この違いを小さくするには、親のお金の全体、介護費、施設費、今後の見通し、遺言書の必要性を、同じ資料で確認できる形にしておくことです。
遺言書は、家族を納得させるための道具ではありません。親本人の意思を、相続の時に使える形で残す書面です。
その前提として、生前のお金の見通しを見える形にしておきます。
遺言書だけで足りるとは限らない
遺言書は、亡くなった後の財産の分け方を決める書面です。
一方で、親が生きている間の支払いを誰が手伝うのか、認知症が進んだ時に誰が手続きをするのかは、遺言書だけでは扱いきれないことがあります。
親がまだ判断できるうちに、今の支払いを家族が手伝うなら、財産管理等委任契約を考える場面があります。
将来、認知症が進んだ時の手続きに備えるなら、任意後見契約を考える場面があります。
亡くなった後の手続きで困ることが見えているなら、死後事務委任契約を考える場面もあります。
ただし、最初から書面名で選ばない方が安全です。
遺言書を作るか。任意後見契約も必要か。財産管理等委任契約を先に作るか。
これは、親のお金の流れ、介護費、施設入居、認知症、相続までを見て決めます。
順番は、遺言書が先ではありません。親のお金の見通しが先です。
実家をどうするかも一緒に見る
遺言書を考える時、実家の扱いは大きな問題になります。
親が実家を誰かに残したいと考えている場合でも、実家を維持できるかを見ておく必要があります。
固定資産税、火災保険、修繕費、草木の管理、空き家になった時の対応。
実家には、お金と手間がかかります。
施設費を払うために、将来、実家の売却を考える場面もあります。
実家を残す話と、施設費をどう払うかは別々ではありません。
実家を誰に残すかだけでなく、親の生活費と施設費が足りるかを先に見ます。そのうえで、実家を残すのか、売る可能性を考えるのか、誰が管理するのかを確認します。
記録に残しておくこと
遺言書を考える前に、親のお金の流れを記録に残しておく方が安全です。
通帳の残高だけでは、何に使ったか分からないことがあります。
現金で引き出した分は、特に後で説明しにくくなります。
残しておきたいものは、次のとおりです。
・通帳の入出金
・年金の入金額
・病院代、薬代、介護費
・施設費の請求書
・親のお金から払った支出
・家族が立て替えた支出
・親のお金から精算した金額
・実家の維持費
・親本人が希望していること
・兄弟姉妹へ説明した内容
記録は、誰かを責めるためのものではありません。親のために使ったお金を、後から確認できる形にするためのものです。
遺言書の内容を考える時にも、生前のお金の流れが見えると判断しやすくなります。
すでに対立している時は別の対応になる
ここまでの話は、「まだ家族の中で確認できる段階」の方に向けたものです。
すでに兄弟姉妹との間で強い対立がある場合は、別の対応になります。
たとえば、お金の使い道について返還を求められている場合。相手が弁護士に相談している場合。
この段階に入っている時は、家族で遺言書や書面を考える場面を超えています。争いになっている事案は、弁護士に相談する場面です。
まとめ
遺言書を書く前に確認することは、財産の分け方だけではありません。
親のお金が今どうなっているか。介護費や施設費でいくら使う見込みか。親本人が何を望んでいるか。
ここを先に見ます。
遺言書は、親本人の意思を残すための書面です。
ただし、亡くなる前に親のお金がどう動くかを見ないまま作ると、家族の実情に合わない内容になることがあります。
介護費、施設費、実家の維持費、家族の立て替え分を確認します。
親の希望と、今後のお金の見通しを並べてから、遺言書の内容を考えることが大切です。

