養育費は、未払いになってからでは遅い

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養育費は、金額だけ決めても守られません

離婚した母子世帯のうち、現在も養育費を受けている世帯は28.1%です(令和3年度 全国ひとり親世帯等調査)。多くの家庭で、養育費は途中で止まるか、最初から受け取れていません。

離婚するとき、多くの方が最初に考えるのは「毎月いくら払ってもらうか」という金額です。しかし、本当に重要なのはその先です。約束した養育費が支払われなくなったとき、どうするのか。

養育費の取り決めで大切なのは、金額だけではありません。

・誰が支払うのか
・どの子どもの養育費なのか
・いつからいつまで支払うのか
・毎月何日に支払うのか
・どの方法で支払うのか
取り決め内容を明確にしておく必要があります。

「養育費は月5万円払う」
それだけでは、後から問題になることがあります。離婚時に大切なのは、約束をすることではありません。離婚後の生活を守るために、回収できる形で約束を残すことです。

養育費には、2種類あります。

① 法定養育費
2026年4月1日に施行された改正民法で新設された制度です。根拠は、民法第766条の3第1項です。父母が養育費を決めないまま離婚した場合でも、子を主として監護する親は法定養育費を請求できます。
金額は民法ではなく、令和7年法務省令第56号第2条第1項で定められており、子ども1人につき月額2万円です。

② 形成養育費
父母が話し合って決める養育費です。実務上は「形成養育費」と呼ばれています。
例えば、
・毎月5万円
・毎月6万円
・大学卒業まで支払う
・毎月末日までに振り込む
など、家庭の事情に応じて自由に取り決めることができます。実際の離婚で取り決める養育費のほとんどが、この形成養育費です。

ここで初めて、離婚協議書と公正証書の違いが出てきます。

2026年の民法改正では、法定養育費だけでなく、一定の要件を満たした形成養育費にも先取特権が認められました。(これがどういう意味なのかは、後ほど分かりやすく説明します。)

その結果、一定の要件を満たした離婚協議書であれば、これまでは公正証書がないと難しかった回収手続が可能となる場面が生まれました。

離婚協議書と公正証書の違い

まず知っていただきたいのは、書く内容はほとんど同じということです。

例えば、
・誰が支払うのか
・どの子どもの養育費なのか
・毎月いくら支払うのか
・いつからいつまで支払うのか
・毎月何日に支払うのか
・どの口座へ支払うのか
などを記載します。

違うのは、未払いになった後の手続きです。

これまでは、離婚協議書だけでは、養育費の未払いが発生しても、すぐに差押えをすることはできませんでした。
シンプルに言うと、まず裁判所で「強制執行してよい」という確定判決を取得し、その後、裁判所へ差押えを申し立てる必要がありました。つまり、離婚協議書を使って養育費を回収する場合は、裁判所で2段階の手続きが必要でした。

一方、強制執行認諾約款付き公正証書であれば、「支払わなかった場合は強制執行を受けても異議を述べません」という意思をあらかじめ公正証書に記載します。

そのため、判決を取得する必要はありません。未払いが発生したら、そのまま裁判所へ差押えを申し立てることで、強制執行へ進むことができます。つまり、公正証書は、裁判所での手続きが1回で済むことが大きな特徴でした。

そこに大きな変化をもたらしたのが、2026年4月1日に施行された改正民法です。

改正民法では、一定の要件を満たした形成養育費について、先取特権が認められました(民法第306条第3号・第308条の2)。「先取特権」という言葉は難しく聞こえるかもしれません。このシリーズでは、「一定の条件を満たした養育費については、判決を取らなくても差押えの手続きへ進める制度が新しくできた」という理解で十分です。

例えば、離婚協議書に、
・子ども1人の養育費を毎月6万円とすること
・毎月末日までに振り込むこと
・支払期間を明確に定めること
など、先取特権の要件を満たす内容を記載していたとします。

その後、相手が養育費を支払わなくなった場合、子ども1人につき【月額8万円まで】であれば、【判決を取得しなくても】、裁判所へ差押えを申し立てることができるようになりました。つまり、離婚協議書でも、公正証書と同じように、「判決を経ずに」差押えの手続きへ進める場面が生まれたのです。

ただし、ここで一つ注意があります。どの離婚協議書でも、先取特権が認められるわけではありません。先取特権を使うためには、離婚協議書に【一定の事項を正しく記載しておく】必要があります。

新しい離婚協議書のつくりかた

どのような離婚協議書を作れば、先取特権を利用できるのでしょうか。

改正民法では、一定の養育費債権について先取特権が認められました。根拠となるのは、民法第306条第3号、第308条の2です。

民法第308条の2は、夫婦間の協力扶助義務、婚姻費用の分担義務、子の監護に関する義務、扶養義務などに基づく一定の金銭債権について、先取特権を認めています。
離婚時に父母が取り決める養育費は、このうち民法第766条(子の監護に関する事項)に基づくものとして扱われます。

また、民法第308条の2では、先取特権の対象となる範囲について、法務省令で定める額を上限とすることが規定されています。その上限額については、令和7年法務省令第56号第1条により、子ども1人につき月額8万円と定められています。

一方で、法律には、「離婚協議書には、この事項を記載しなければならない」という一覧表のような規定はありません。また、法務省令にも、「離婚協議書には、支払者、対象となる子、金額、支払日などを記載しなければならない」という具体的な記載事項は定められていません。

つまり、法律が定めているのは、「どのような養育費債権について先取特権を認めるのか」という制度の部分です。
一方で、「どのような書面を作れば、将来の差押え手続きで利用できるのか」については、今後の裁判所の運用や裁判例によって整理されていく部分があります。

ただし、未払いが発生した場合に差押えの手続きを進めるためには、書面から養育費の内容が明確に分かることが重要です。

現時点では、少なくとも次の事項は明確に記載しておくことが望ましいと考えられます。
・誰が支払うのか
・誰の養育費なのか
・毎月いくら支払うのか
・いつから、いつまで支払うのか
・毎月何日までに支払うのか
・どの方法で支払うのか

つまり、重要なのは名称ではなく、内容です。
離婚協議書という名称でなければならないわけではありません。
夫婦合意書、離婚合意書など、名称が違っていても、当事者間の合意内容が明確に記載されていれば対象となる可能性があります。

では、必要な内容を満たしたメモ書きや誓約書でも、先取特権を利用した強制執行ができるのでしょうか。
この点については、現時点では明確な裁判例や実務運用が確立しておらず、断言できません。見解は、書面の名称ではなく、実質的な内容が重視されると考えられます。

しかし、将来の未払い時に裁判所で手続きを行うことを考えると、単なるメモではなく、夫婦双方が確認した合意書として作成しておくことが安全です。

今回の先取特権の制度は2026年4月1日に施行された改正民法によるものです。施行前に作成された書面については、新しい制度がどのように適用されるのかという経過措置の問題があります。

経過措置とは、法律が変わった際に、改正前の状態にあった人や事案をどのように扱うかを定めるルールです。施行前に作成された書面への適用については、個別に確認する必要があります。

それでも公正証書を作る意味はあるのか

結論から言うと、公正証書が不要になったわけではありません。ただし、何を守るために書面を作るのかによって、その意味は変わります。まず、離婚全体の取り決めとして考える必要があります。

離婚では、養育費だけを決めるわけではありません。

・財産分与
・慰謝料
・年金分割
・親子交流
・その他の離婚条件
など、複数の事項を整理する必要があります。

公正証書の大きな意味は、これらの取り決めを公証人が作成する公的な書面として残せることです。

さらに、金銭の支払いについて強制執行認諾約款(文言)を付けた場合、養育費以外の金銭債権についても、一定の場合には裁判手続きを経ずに強制執行へ進むことができます。

また、年金分割については、公正証書が年金事務所での手続きに利用できる重要な書類の一つになります。離婚協議書でも年金分割の合意内容を残すことはできますが、公正証書のように手続き上利用できる書類にはなりません。

一方で、養育費だけに限定して考えると、2026年の民法改正によって状況は変わりました。

以前は、離婚協議書で養育費を取り決めても、未払いが発生した場合には、まず裁判所で強制執行をするための書類(債務名義)を取得する必要がありました。

しかし、改正民法により、一定の要件を満たした養育費債権には先取特権が認められました。

そのため、要件を満たす書面で養育費の内容を明確にしておけば、離婚協議書による取り決めでも、判決などの債務名義を取得せずに差押えの手続きへ進める場面が生まれました。

つまり、養育費だけを見るなら、
「公正証書でなければ回収できない」
という状況から、
「適切な内容で作成された離婚協議書でも対応できる可能性がある」
という変化が生じたということです。

ただし、これは公正証書の意味がなくなったということではありません。
離婚では、養育費だけでなく、財産分与、慰謝料、年金分割など、複数の問題を整理する必要があります。何を、どの書面で残すのかを考えることが重要です。

まとめると、
養育費だけに限れば、2026年の民法改正により、離婚協議書でも以前より強い効果を持つ場面が生まれました。
しかし、離婚全体の条件を整理し、金銭債権や年金分割まで含めて考える場合、公正証書を作成する意味は現在も大きく残っています。

養育費は、離婚するときに金額だけ決めれば終わりではありません。
大切なのは、離婚後に約束が守られなかった場合まで考えて、どのような書面として残すかです。

2026年から始まった法定養育費には落とし穴があります

2026年4月1日から、離婚時に養育費の取り決めをしていない場合でも、一定の条件を満たせば「法定養育費」を請求できる制度が始まりました。「養育費を決めずに離婚しても、法律で守られるようになった」と思われるかもしれませんが、法定養育費はすべての離婚に適用される制度ではありません。

【法定養育費とは何か】

法定養育費とは、離婚時に養育費の取り決めがない場合に、離婚後の一定期間について請求できる養育費です。対象となる場合、離婚の日から、子ども1人につき月額2万円の法定養育費を請求することができます。

法定養育費の2万円は、あくまで取り決めがない場合に請求できる金額です。子どもの年齢や父母の収入、教育費などの実態を反映した金額ではないため、実態に見合った金額を受け取るには、別途、父母間での取り決めが必要です。

【注意してください】

法定養育費が利用できるのは、2026年4月1日以降に離婚した場合のみです。2026年3月31日以前に離婚した方は制度を利用できませんが、養育費自体を請求できないわけではありません。これまでと同様に、父母で話し合い、金額や支払方法を取り決めることになります。

【養育費は離婚条件の一部です】
養育費は、協議離婚で決める条件の一つにすぎません。離婚では、以下のような複数の条件を整理して決める必要があります。
・財産分与
・親子交流
・住宅ローン
・年金分割
・離婚後の生活
一つの条件だけを見るのではなく、離婚後の生活全体を考えて準備することが大切です。

法定養育費と先取特権の違い

2026年4月1日から、養育費に関する新しい制度が2つ同時に始まりました。「法定養育費」と「先取特権」です。この2つは別の制度であり、離婚した時期によって使える範囲も異なります。ここを取り違えると、回収できるはずの養育費を諦めてしまうことになりかねません。

【法定養育費とは】
法定養育費とは、離婚時に養育費の取り決めがない場合に、子ども1人につき月額2万円を請求できる制度です。この制度は【2026年4月1日以降に離婚した方だけ】が対象であり、それ以前に離婚した方には請求権自体が発生しません。 つまり2026年3月31日以前に離婚した方は法定養育費を請求できません。

【先取特権とは】
先取特権とは、養育費が支払われなかったときに、公正証書や調停調書がなくても、要件を満たした合意書があれば給与等の差押えを申し立てられる制度です。差押えには本来「債務名義」と呼ばれる証明書類が必要でしたが、この改正によって、その手前の段階でも回収手続きに進めるようになりました。先取特権が及ぶ範囲は、子ども1人あたり月額8万円までです。

2つの制度の一番大きな違い】
法定養育費は、2026年4月1日以降に離婚した方しか使えません。一方、先取特権は、2026年3月31日以前に離婚した方でも使うことができます。ただし、先取特権を使って回収できるのは、2026年4月1日以降に発生した養育費に限られます。施行日より前に発生していた未払い分については、先取特権の対象外です。
たとえば、2025年4月に離婚し、月5万円の養育費を取り決めていたものの、相手が一度も支払っていないケースを考えます。この場合、2026年4月分以降の未払い養育費については先取特権を使って回収できますが、2025年4月分から2026年3月分までの未払い分は、先取特権の対象にはなりません。

制度があっても、取り決めがなければ使えません】
先取特権は、あくまで「取り決めた養育費が支払われないとき」の回収手段です。取り決め自体がなければ、そもそも先取特権を使う対象がありません。同様に、法定養育費も月額2万円という暫定的な金額にとどまるため、実態に見合った金額を受け取るには、離婚時にきちんとした取り決めをしておくことが欠かせません。

どちらの制度も、養育費を「決めておくこと」の重要性を裏付けるものです。離婚では、養育費だけでなく、財産分与や住宅ローン、親子交流など複数の条件を合わせて整理しておく必要があります。

養育費の回収方法は3つある。離婚時の準備で差が出ます

「養育費が払われなかったら、そのとき考えればいい」と思っていませんか。実は、未払いが起きてから動く場合と、離婚時に回収まで見据えて準備しておく場合では、利用できる手段が大きく変わります。今回は、養育費を回収するための「債務名義に基づく強制執行」と「担保権の実行」について整理します。

【強制執行とは】
強制執行とは、公正証書、調停調書、審判書などの「債務名義」に基づいて、相手の給与や預金などを差し押さえる手続きです。債務名義があれば、取り決めた養育費全額について差押えの申立てをすることができます。ただし、口約束や通常の合意だけでは、原則として強制執行を行うことはできません。

【担保権の実行(先取特権に基づく差押え)とは】
養育費の回収手続きには、「債務名義に基づく強制執行」と「先取特権に基づく担保権の実行」があります。強制執行は、民事執行法に基づき、債務名義を利用して行う手続きです。

一方、2026年4月1日施行の改正民法では、養育費債権について先取特権が認められ、一定の範囲で債務名義がなくても、担保権の実行として差押えの申立てができるようになりました。これは改正民法第308条の2に基づく制度です。取り決めた養育費について担保権の実行を行うには、法律上の要件を満たす養育費の合意書等が必要です。

一方、法定養育費については、民法第766条の3により、一定の条件のもとで取り決めがなくても請求することができます。ただし、法定養育費は、本格的な養育費の取り決めまでの暫定的な制度です。

【養育費を回収する方法は3つあります】
養育費の回収方法は、大きく分けると次の3つです。
①債務名義に基づく強制執行
公正証書や調停調書などの債務名義に基づき、取り決めた養育費全額について差押えを申し立てる方法です。

②取り決めた養育費に基づく担保権の実行
改正民法第308条の2により、養育費債権の一定額について先取特権が認められました。離婚時に養育費の取り決めを書面でしている場合、子ども1人につき月額8万円までの範囲で担保権の実行を申し立てることができます。ただし、対象となるのは2026年4月1日以降に発生した養育費です。

③法定養育費に基づく担保権の実行
改正民法第766条の3により、2026年4月1日以降に離婚し、養育費の取り決めをしていない場合でも、一定の条件のもとで法定養育費を請求できる制度が新設されました。対象となる金額は、子ども1人につき月額2万円です。法定養育費についても、未払いの場合には担保権の実行の手続きを申し立てることができます。
なお、担保権の実行は、いずれも2026年4月1日以降に発生した養育費が対象です。

【新たに整備された養育費回収手続の負担軽減策】
2026年4月1日から、改正民事執行法等により、養育費の履行確保に向けた手続きの見直しが行われることになりました。

具体的には、執行手続の負担軽減策(ワンストップ化)や、収入情報の開示命令など、養育費回収を進めるための制度が整備されました。

主な根拠規定として、民事執行法第167条の17、人事訴訟法第34条の3、家事事件手続法第152条の2などがあります。これにより、養育費を回収する際の手続き負担の軽減が期待されています。
ただし、この仕組みが整備されても、離婚時の取り決めが不要になるわけではありません。回収の前提となる養育費の内容や支払条件を、離婚時に明確にしておくことが重要です。

【何もなければ、結局差し押さえられません】
取り決めた養育費について担保権の実行を行う場合、口約束だけでは利用できません。養育費について法律上の要件を満たす合意書等がなければ、先取特権に基づく担保権の実行を利用することはできません。

一方、法定養育費については、法律上の要件を満たす場合には、取り決めがなくても利用できる場合があります。しかし、法定養育費は暫定的な制度です。将来の未払いに備え、適正な養育費を確保するためにも、離婚時に書面で取り決めをしておくことが重要です。

強制執行にせよ、担保権の実行にせよ、共通しているのは「離婚時にどこまで準備していたか」で、未払いになった後の対応が変わるということです。未払いになってから対応するのではなく、離婚時の取り決めそのものを、将来の回収まで見据えて設計しておくことが重要です。

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